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仕事で「うつ病」になった・・・「労災」と認めてもらえるか?

仕事で「うつ病」になった・・・「労災」と認めてもらえるか?

うつ病が原因で自殺してしまった広島県立因島高校の男性教諭(当時41歳)の遺族が、「うつ病になったのは勤務中のストレスが原因だった」として、「公務災害」の認定を求めた訴訟の判決が2013年1月30日、広島地裁であった。森崎英二裁判長は、自殺が公務災害だったと認め、地方公務員災害補償基金広島県支部が公務外災害とした処分を取り消した。

今回の判決では、「学級崩壊や生徒からの暴言を受けるなど、勤務中の精神的ストレスが原因でうつ病を発症した」と公務と自殺の因果関係が認められたが、うつ病は、発症した人の性格や生活環境など、複雑な要因が絡み合い発症する病気であり、仕事が原因でうつ病を発症したと立証することは難しいとされている。

公務災害とは、公務員がその公務中に受けた災害のことで、一般的には労災(労働災害)と呼ばれるものだ。では、仕事をしているときにうつ病を発症した人が、労災と認定されるためには、どのような条件が必要なのか。うつ病が労災と認定される基準はあるのか。過労死などの労災認定や裁判で数多くの実績がある波多野進弁護士に聞いた。

●うつ病が労災と認定される基準は?

「厚生労働省は2011年12月に『精神障害等の労災認定基準』を発表しています。うつ病が労災に該当するかどうかを一番初めに判断する労働基準監督署では、この認定基準に沿って労災かどうかを判断します」

その基準はどのようなものだろうか。波多野弁護士によると、うつ病が労災と認められるためには次の2つの要件が必要だ。

「(1)認定基準の対象となる精神障害(うつ病など)の発病前のおおむね6ヵ月の間に、業務による強い心理的負荷が認められることと、(2)業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないことです」

ただし、(2)の要件については「原則として問題にならないので、これを過度に気にする必要はありません」という。重要なのは(1)の要件だが、その中の「業務による強い心理的負荷が認められる」というのは、「業務による具体的な出来事があり、その出来事とその後の状況が、労働者に強い心理的負荷を与えたこと」を意味するのだという。

●労災として認定されやすいケースは?

では、具体的にどのような場合に「業務による強い心理的負荷が認められる」といえるのだろうか。厚生労働省では「職場における心理的負荷評価表」というものを作り、職場で発生する心理的負担の大きい出来事を列挙し、その出来事の平均的な心理的負荷の強度を表記している。

「たとえば、業務内容が変わった、仕事量が増えた、パワーハラスメントやセクシャルハラスメントを受けた、配置転換があったなど、この『職場における心理的負荷評価表』に列挙されている出来事が実際にあって、その心理的負荷の強度が相当程度認められれば、『業務による強い心理的負荷』があったといえます。また、精神疾患発症の背景になる長時間労働(時間外労働が100時間程度)等の過重業務があった場合も、『業務による強い心理的負荷』が認められる可能性が大きいといえるでしょう」

つまり、仕事量が大きく増えたり、上司からひどいパワハラやセクハラを受けたりしたあとに、うつ病を発症した場合は、労災が認められる可能性があるということになる。

●うつ病の「労災認定」を勝ち取るチャンスは6回ある

さらに波多野弁護士は、労働基準監督署でうつ病が「労災」と認められなかった場合でも、労災認定のチャンスが残されていることを強調する。

「労働基準監督署の判断が絶対ではなく、不服であれば審査請求、さらに再審査請求と、行政段階で合計3回の判断を求めることができます。

「これでも納得できなければ、労基署の判断が誤りであると訴えて、裁判所にその処分の取り消しを求める訴訟を起こすことができます。裁判でも地方裁判所、高等裁判所、最高裁判所と3回争う機会があります。したがって、行政と裁判を合わせて計6回のチャンスがあるわけです」

このように述べたうえで、波多野弁護士は「労働基準監督署の認定基準はあくまで目安に過ぎず、これにきれいに当てはまらなくても、仕事(業務)が原因でうつ病に罹患したと評価できれば、裁判においては労災と認められる可能性があります」と説明する。

つまり、労働基準監督署で「労災」と認めてもらえなくても、それ以外の手続きで労災認定を勝ち取れる可能性があるということだ。「仕事のせいでうつ病にかかった」と考えている人は、労災と認定してもらえそうか、労災問題に詳しい弁護士に相談してみるのもよいかもしれない。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

波多野 進
波多野 進(はたの すすむ)弁護士 同心法律事務所
弁護士登録以来、10年以上の間、過労死・過労自殺(自死)・労災事故事件(労災・労災民事賠償)や解雇、残業代にまつわる労働事件に数多く取り組んでいる。

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