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休日に自宅で作業する「持ち帰り残業」 どんなときに「労働時間」と認められるのか?
家に帰っても仕事となれば、心身が休まらないだろう

休日に自宅で作業する「持ち帰り残業」 どんなときに「労働時間」と認められるのか?

2011年に自殺した大手英会話学校の女性講師について、長時間の「持ち帰り残業」を理由として、労災認定されていたことがわかった。朝日新聞によると、女性は2011年春にこの学校に入社し、その年の6月に自殺した。女性は家族に「持ち帰り残業が多かった」と話していたが、一人暮らしだったため、自宅作業の裏付けは困難だった。

そこで金沢労基署は、女性が入社してから約2カ月間に、レッスン用の教材カード約2400枚を、主に自宅で作成していたことに着目した。担当者が同様のカードを作ってみるなど、試算したうえで、持ち帰り残業時間が月間82時間だったと推定したという。

ただ、今回の話からも伝わるように、客観的に「持ち帰り残業」を認めてもらうのは簡単ではなさそうだ。現在、「持ち帰り残業」をしている人たちは、きちんと仕事をしていたと認めてもらうために、どんなことに気をつければいいのだろうか。労働法にくわしい野澤裕昭弁護士に聞いた。

●キーワードは「指揮命令」

「自宅で『持ち帰り残業』をしていたと認められるためには、自宅での作業時間が、労働基準法上の労働時間(業務)と言えることが必要です」

仕事をしていれば、労働時間ではないのだろうか?

「法律上の『労働時間』は、『労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間』と定義されています」

この使用者というのは、人を雇う側のことだ。つまり、言い換えると、会社の指揮・命令を受けている状態だったかどうかがポイントなわけだ。持ち帰り残業はどうだろうか?

「会社や工場に出勤して作業している時間は、使用者の管理下にあることが明らかですから、『指揮命令下』にあると比較的簡単に認められるでしょう。

しかし、自宅作業の場合、労働者が何をしているのか、会社が直接確認できるわけではないので、『指揮命令下』にあると言えるかどうかは微妙です」

微妙・・・ということだが、自宅作業が「労働時間」になるのは、どんな場合だろうか?

「たとえば、使用者が、会社での勤務時間中に処理しきれないほどの大量の作業を指示した場合ですね。

あるいは、労働者が家で作業せざるを得ない状態にあることを認識しながら、それを使用者が黙認しているような場合が考えられます。

このような場合、自宅作業が労働時間とみなされます」

●どれぐらい仕事をしていたのか?

「ただし、持ち帰り残業をしていたと認定されたとしても、もう一つ超えなければならないハードルがあります。それは、自宅での労働時間がどれぐらいあったかの立証です。

自宅で何らかの業務をしていたことが証明できても、それだけで十分ではありません。

作業の具体的内容や、作業に費やした時間が不明の場合、残業代が算出できず、裁判で認められない可能性が高くなります」

立証するためには、どうすればいいのだろうか?

「持ち帰り残業を立証するためには、具体的な作業内容やそれに費やした時間が分かるような証拠を残す必要があります。

たとえば、自宅で文書を作成した場合、文書の内容や、作成に要した時間をパソコンに残すことがいいでしょう。また、手作業をした場合は、その結果を写真に撮っておくと、それも証拠となりえます」

業務の内容や時間をメモしておいたり、作業の結果を写真撮影しておくなど、さまざまな「自衛手段」があるようだ。

たまに、黙々とパソコンに向かっている様子をネット配信している人を見かけるが、そんな「誰得配信」でも、いざというときには有効な証拠になるかもしれない。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

野澤 裕昭
野澤 裕昭(のざわ ひろあき)弁護士 旬報法律事務所
1954年、北海道生まれ。1987年に弁護士登録。東京を拠点に活動。取扱い案件は、民事事件一般、労働事件、相続・離婚等家事事件、刑事事件など。迅速かつ正確、ていねいをモットーとしている。趣味は映画、美術鑑賞、ゴルフなど。

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