妻子がありながら、日々会社で顔を合わせる同僚と深い仲になってしまった―—。そんな社内不倫中の男性に思わぬ事態が起こりました。
男性は、会社にバレないよう、不倫相手とこっそり逢瀬を重ねてきました。ところがある日のデート中、運悪く上司と遭遇。「不倫は風紀を乱す」と厳しく注意されたため、男性は「懲戒処分をされるのだろうか」と心配しています。
社内不倫が会社にバレた場合、懲戒処分されても仕方ないのでしょうか。山田長正弁護士の解説をお届けします。
●単に「社内不倫が発覚した」だけでは懲戒処分にできない
ーー不倫は社内の処分理由になるのでしょうか。
不倫は、夫婦関係がすでに破たんしているなどの事情がない限り、民法上は違法とされますし、離婚の理由にもなりえます。法律上はもちろん、倫理的にも社会的にも許されない行為です。
しかし、だからといって、不貞行為が社内の処分の理由になるか否かは別の話です。不貞行為はあくまでも私生活上の問題ですので、ただちに処分の理由とすることはできません。
企業が社員を処分する際の理由となるのは、企業における秩序が乱れるなど、企業運営に具体的な支障が発生する場合に限られます。具体例として、次のような場合です。
・最終学歴や職歴、犯罪歴を詐称
・業務上の指示・命令に従わない
・会社を名指しして、SNSなどで誹謗中傷する
・会社の許可なく他社で働いたり、自ら事業を営む
このように、社員が企業秩序を乱す行為をしたため、企業運営に具体的な支障が生じた場合、会社は制裁のために、「減給」や「降格」などの懲戒処分をおこなうことができます。
ーー相談者は上司に「不倫は風紀を乱す」と厳しく注意されたそうです。今回のように、社内不倫がバレた場合はどうなるのでしょうか。
社員が不貞行為をおこなったとしても、ただちに企業運営に具体的な支障が発生するとはいえません。相談者は、相手の女性と「こっそり関係を続けてきた」ということですし、社内の風紀を乱していたわけではなさそうです。
単に社内不倫が発覚した、というだけでは、会社はその社員を懲戒処分することはできません。よって、企業秩序を乱していないにもかかわらず懲戒処分をおこなった場合、その懲戒処分は無効です。
●例外的に、不倫が懲戒処分につながるケースも…
ーー不倫が懲戒処分につながる可能性はあるのでしょうか。
はい。例外的に、不倫が懲戒処分につながることもあります。
たとえば、グループで仕事をおこなうような状況で、不貞行為をしている者同士しかコミュニケーションを取らず、他のメンバーをないがしろにしたために、業務が円滑に遂行されないケースです。また、職務時間中に、不貞行為の相手とデートをするなどのケースも、懲戒処分の対象となりうるでしょう。
ーーでは、就業規則で社内恋愛が禁止されている場合に、規則を破って不倫関係になってしまった場合はどうなるのでしょうか。
そもそも、そのような就業規則に基づくルール自体が有効なのか否かが問題になるでしょうね。
すなわち、就業規則はあくまでも企業の秩序を守る目的で定められたものです。よって、個人の恋愛の自由まで縛ることはできません。
たとえ社内恋愛禁止のルールを破ったとしても、それだけを理由としてただちに社員に対して懲戒処分することは認められないでしょう。
(弁護士ドットコムライフ)