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「コロナはただの風邪」クラスターフェス、渋谷で毎週開催 「NOマスク」に批判殺到 法的な問題は?
渋谷ハチ公前広場で開催されたクラスターフェス(2020年9月5日、弁護士ドットコム撮影)

「コロナはただの風邪」クラスターフェス、渋谷で毎週開催 「NOマスク」に批判殺到 法的な問題は?

新型コロナウイルスの感染がおさまらない中、マスクを着けない人が集まる音楽イベント「クラスターフェス」が8月以降、毎週土曜日に東京・渋谷ハチ公前広場で開催されている(9月11日現在)。

主催しているのは、2020年7月の東京都知事選にも出馬した平塚正幸氏。クラスターフェスでは、「コロナはただの風邪」と書かれたのぼりが掲げられ、マスク非着用の参加者が歌声を披露する。

平塚氏は、ツイッターなどで「コロナは誰の健康も害さない」「マスクを外そう」「自粛必要なし」などと主張。それに沿う形でクラスターフェスは行われている。

クラスターフェスについて、ネットでは、賛同の声もあるが、「近付きたくない」「迷惑だからやめてほしい」「これ以上感染が広がったらどうするんだ」などの懸念を示す意見がほとんどだ。

なお、ハチ公前広場での開催について、警視庁は、取材に対し、「一般的に、ハチ公前広場の歩道部分において、集会などで一般交通に著しい影響を及ぼすような場合には道路使用許可が必要」とした上で、クラスターフェス主催側の申請の有無については「回答を差し控える」としている。

感染拡大が収まっていない中で、このような集会を開くことに法律上問題はないのだろうか。澤井康生弁護士に聞いた。

●クラスターフェスにも「集会の自由認められる」

ーー集会は好きなように開催してもよいのでしょうか

「表現の自由、集会の自由は憲法21条1項で保障されており、講学上、精神的自由権として基本的人権の中でも最大限の尊重がなされるべきとされています。

したがって、一般的に公共の安全や秩序を維持する見地から集会の自由を制限するためには必要最小限度でなければならないと解されています。

たとえば、いわゆる東京都公安条例では、集会、集団行進及び集団示威運動について、公共の安寧を保持する上に直接危険を及ぼすと明らかに認められる場合以外はこれを許可しなければならないと規定しています(1条)」

ーー制限されるケースがかなり限られているのですね。クラスターフェスはどうでしょうか

「クラスターフェスは、マスクを着用せずに人が密集するという点においてその特徴がありますが、コロナ感染拡大を目的としているわけではなく、内容的には純然たる音楽フェスだと思われます。

また、現時点ではコロナ自粛自体があくまで『任意の自粛』であり、法令によって義務付けられたものではないため、コロナ自粛しないで音楽イベントを行うこと自体は何ら違法ではありませんし、開催したからといってコロナ感染やクラスターが起きるかどうかはわかりません。

これらの事実から、クラスターフェスは『公共の安寧を保持する上に直接危険を及ぼすと明らかに認められる場合』には該当しないと思われます。

したがって、クラスターフェスも一般の音楽イベントと同様に集会の自由として認められるという結論になり、ただちに禁止したり取り締まったりすることはできません。

ただし、このようなコロナ禍の中にあっては、クラスターフェスに対し不安感や危惧感を覚える人達もいます。たとえば、集団でマスクなしのまま電車に乗車するような行為は控えてもらいたいと思います」

ーー仮にどのような集会であれば、制限されるのでしょうか

「極端な例ですが、サリンガスやVXガスなどの毒ガスを散布拡散するための集会であれば、集会自体が他者の生命、身体を害するなどして公共の安全を侵害することから、禁止できるという結論になると思います(もちろん特別刑法違反にもなりますが)」

●集会禁止の仮処分の申し立て「難しい」

ーー集会の開催を懸念する人にとって、阻止する手段などはあるのでしょうか

「集会の開催を阻止する手段としては、裁判所に集会禁止の仮処分の申し立てを行い、集会禁止を命じてもらう方法が考えられます。

実際にあった例として、川崎市内において予定されていたヘイトデモの事前差し止めを認めた事件があります(横浜地裁川崎支部平成28年6月2日決定)。同決定は、差別的言動は表現の自由、集会の自由の保障の範囲外であるとして、デモを行うことを禁止しました。

この点、今回のクラスターフェスは、内容としては純然たる音楽イベントであり、実行したからといってただちに感染者やクラスターが発生するか不明であることから、集会禁止の仮処分の申し立てをしても認められるかどうかは難しいのではないかと思われます」

ーー仮に集会で新型コロナのクラスターが発生した場合、法的責任はどうなりますか

「仮にフェスの中でクラスターが発生した場合、参加者は感染リスクを認識したうえで参加していたことから、被害者の推定的承諾あるいは危険の引き受けがあったと評価できるのではないでしょうか。

そのような場合には、主催者等が刑事事件として傷害罪(刑法204条)や過失傷害罪(刑法209条)で立件されたり、民事事件として損害賠償責任(民法709条)を負うことはないと思います」

ーー通行人を感染させてしまった場合はどうでしょうか

「感染した人が重症化した場合、主催者等について刑事事件として傷害罪や過失傷害罪が成立する可能性はありますし、民事事件として不法行為による損害賠償責任を負う可能性もあります。

ただし、責任を問うためには、感染経路の解明等でクラスターフェスによって感染したという因果関係の立証が必要になります」

プロフィール

澤井 康生
澤井 康生(さわい やすお)弁護士 秋法律事務所
警察官僚出身で警視庁刑事としての経験も有する。ファイナンスMBAを取得し、企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所の非常勤裁判官、東京税理士会のインハウスロイヤー(非常勤)も歴任、公認不正検査士試験や金融コンプライアンスオフィサー1級試験にも合格、企業不祥事が起きた場合の第三者委員会の経験も豊富、その他各新聞での有識者コメント、テレビ・ラジオ等の出演も多く幅広い分野で活躍。陸上自衛隊予備自衛官(3等陸佐、少佐相当官)の資格も有する。現在、早稲田大学法学研究科博士後期課程在学中(刑事法専攻)。朝日新聞社ウェブサイトtelling「HELP ME 弁護士センセイ」連載。楽天証券ウェブサイト「トウシル」連載。毎月ラジオNIKKEIにもゲスト出演中。新宿区西早稲田の秋法律事務所のパートナー弁護士。代表著書「捜査本部というすごい仕組み」(マイナビ新書)など。

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