
坂本 義夫 弁護士 インタビュー
弁護士を目指したきっかけ
幼い頃、イタイイタイ病の記録映画を見たことが、弁護士を目指したきっかけです。イタイイタイ病に苦しむ方の姿や、大企業の経済活動により人の命が奪われる理不尽さが忘れられず、こうした人たちを助けたいと思うようになりました。また、イタイイタイ病被害者の救済の為に、全国各地の弁護士が集い、闘ってきたという事実にも心を動かされました。
司法修習の際にその映画をもう一度みる機会があり、改めて弁護士への志を強めました。現在は、イタイイタイ病が起きた富山県で活動をしています。
今までの経験と現在の仕事内容
民事事件、家事事件、刑事事件など、法的紛争全般を扱ってきました。分野を限らず、依頼者の方のご相談に応じて様々な事件をお受けしています。
その中でも、人の命や生活が軽んじられ、弱者が虐げられるような事件には、特に関心があります。イタイイタイ病のような公害訴訟や、全国B型肝炎訴訟、志賀原発運転差止訴訟など、分野を問いません。そういった方々に寄り添い、人々の命や家族、生活を守る力になれることが、弁護士の魅力だと思っています。
弁護士としての信条・ポリシー
弁護士を目指した頃から「命に関わる事件は見逃せない」という思いはずっと抱いています。人の命ほど大切なものはないにも拘らず、それが企業活動や経済的利益などのために犯されることが許せないのです。そういった思いから、現在も、イタイイタイ病やB型肝炎といった問題に関わり続けています。
弁護士の法廷外の仕事や役割も大切にしたいと思っています。既存の法律に事件をあてはめて訴訟で事件を解決していくことももちろん重要な仕事です。しかし、それを超えて、法廷外で実情を訴えたり、マスコミに向けて声を発信したりするということも大切だし、そうでなければ解決しない問題もたくさんあると感じています。
大きな問題に立ち向かったときこそ、弁護士が情報を発信し世論を動かすことができれば、法律の改正や新法の制定に繋がります。マスコミの前で話すことが好きなわけでも、得意なわけでもありませんが、自ら先頭に立って声をあげることも、弁護士だからこそできる、大切な役割だと思っています。
依頼者に対して気をつけていること
最近になって、依頼者の方から、事件の「背景」を聞き取ることの重要さをより強く感じるようになりました。分野は同じ事件でも、依頼者の方の性格やそれまでの人生、事件の詳しい内容を知ると、やはりそれぞれの事件には違いがあり、同じ事件はありません。事件を解決するにあたる際は、そうした事件の背景に目を向けることで、依頼者にとってより良い解決が導けると思っています。
もちろん、私たちもプロなので、依頼者の気持ちに引っ張られすぎて冷静な判断ができなくなってはだめですし、背景事情を必要以上に全面に出して情に訴えかけるような方法はとりません。しかし、その背景をきちんと知っていなければ、どんな言葉で訴えかけても、表面的で上滑りになってしまうように思うのです。事件の背景は、依頼者の気持ちを伝える上での大事な根底とも言えるかもしれません。
だからこそ、依頼者の方とお話をする際は、話しやすい雰囲気を心がけ、細かい情報や、一見不要に思えるようなことでも、丁寧に聞き取ることを心がけています。
関心のある分野
やはり、私が弁護士を目指すきっかけでもあった、イタイイタイ病の問題には関心があります。四大公害病が問題になったのは昔のことと思われている方もいるかと思いますが、イタイイタイ病の問題は、勝訴判決が確定して40年以上たった今でも、終わっていません。
イタイイタイ病に関して言えば、主治医がイタイイタイ病と診断しても県がイタイイタイ病と認定しない例があります。そのような方のイタイイタイ病認定申請は今でも続いており、イタイイタイ病の患者は今も発生しています。
また、かつてカドミウムが流された神通川の水は現在は綺麗になっていますが、上流には今も稼動している工場があり、カドミウムに汚染された堆積場があります。神通川がまた汚されることがないように、またこんな公害が起きてしまわないように、監視をしていくという活動はこれから先もずっと続きます。
私も神通川流域の地元住民の皆様と共に、工場の排水に目を光らせてきました。工場の不注意だけでなく、地震などでダムが壊れたりすることもないようにも、気を配っています。
公害のように大きい問題は簡単には解決に至りません。被害者の数が多いため、いくら法律や公害病認定制度を設けても、どうしてもその枠からこぼれ落ちてしまう方がいらっしゃいますし、そうした方ひとりひとりを救わなければいけません。また、裁判だけでなく、マスコミや世間に対して声を発し続けることも必要です。
一見事件が解決したように見えても、その闘いは長く続くのです。私自身、これから先も、地域の皆さんと共に、イタイイタイ病の問題に取り組み続けたいと思っています。