富永 良朗 弁護士 インタビュー
弁護士を目指した理由
中学生の頃から「社会」と「技術」と「美術」だけは自信があり、高校2年時に到来した志望を決める頃、無謀にも芸術系への進学の可否を美術科の先生に聞きましたら、「芸術系の大学に入る人達は小さい時から先生について勉強しているんだよ」と言われました。
そこで、社会科の延長のような法学部を志望しました。中学時代までに、母から、父が交通事故死した後、裁判や弁護士の力で切り抜けた苦労話を聞き、隣室で弁護士の交渉状況を見分していたのも大きかったと思います。法律は武器になるのではないかと思っていました。
勉強して法律は非常に面白いと感じました。しかし実務に出ると、大きく違いました。
勉強と実務で最もギャップがあった部分
事実認定です。民訴のゼミで判例を読んでいましたが、既に認定された事実の下での判例理論の勉強が主で、証拠から事実を認定する経験はしません。できもしなかったと思います。
ある時、境界確定訴訟の関係で「公図」が問題になりました。ゼミの指導教授が「公図は位置関係を示すだけ、長さや面積など分かりませんよ」と仰いましたが、「公図」を見たこともない我々学生が「そんなことはないでしょう」などと頑張ったこともありました。妙なことでした。
(研修所での各種起案を含め)事実認定は実務で初めて経験しますし、通常の実務では、理論が問題となるのは少なく、むしろ事実認定が勝負でしょう。経済界には事実認定など難しくないということを書いている人も一部いますが、原発事故の各種調査報告書の内容が区々な点からも、それが非常に難しい作業であることは明らかでしょう。
手がけた事例
裁判官時代の仕事で強烈に印象に残っているのは「藤沢悪魔祓いバラバラ殺人事件」です。私が主任で担当した時、被告人の1人には3人の、もう1人には2人のいずれも著名な精神医学者の各鑑定書が計5通提出されていました。が、鑑定結果が三者三様でした。
それぞれの鑑定人が同じテストを実施している場合もあり、共通するテスト毎に内容を細かく対比する図表を作り、同じ被告人につき同じ事件記録を見ながら、どうしてこんなに違うのかを理解しようとしました。
判決は、1人の被告人つき確定し、もう1人についても控訴審で維持されたようでした。が、著名なお2人の精神医学者が、単行本の中でそれぞれの鑑定書を紹介、その叙述過程で判決を批判する文章をお書きになっておいでです。
一方現在は、裁判員裁判の弁護人として裁判の準備をしています。
裁判員裁判についての印象
色々な意味で裁判所が悪乗りしている印象が否めません。証拠厳選との名目の下、検察官も同意している弁護側の請求証拠を「不必要」却下します。証拠も見ていない裁判官がその要否をどう判断できるのか首をかしげたくなります。被告人の精神状態の関係では、難しい話も出てきます。そうすると、「裁判員にはわかりませんよ」。
しかし、陪審でなく裁判員制度にして裁判官を評議に加えたのは当然に裁判官がかみ砕いて説明することを予定してのことでしょう。更に、従前の起訴後手続で弁護側が反証した場合、検察官側が更に立証するには公判手続を利用するのが普通でした。
しかし、裁判員裁判では公判前手続が始まっても、検察官は延々と捜査・立証活動を続けます。自ずから弁護側もしますので、公判前手続が長期化しています。裁判所は公判前手続の長さには無頓着です。結果的に審理の効率化という理念が没却されています。
弁護士としての信条・ポリシー
裁判官をしていた時と弁護士になってからでは大分違うでしょうと聞かれることもあります。が、私はいわば裁判原理主義者で、裁判とは、事実を確定し、その事実に法律を適用して法律効果を宣言する国家作用と考え、それを実践していました。
一部の報道にある、検察の主張を鵜呑みにするような裁判はしませんでした。裁判は単なるセレモニーではありません。検察官立証で有罪の心証が取れなければ、無罪判決は起案も一苦労ですが、他にありません。身柄が拘束されていればもちろん、いわゆる在宅起訴でも被告人は相当な不利益を受けます。それを晴らさなければなりません。
「執行猶予なら・・・」などとは思っていませんでした。それは逮捕状・勾留状等の令状処理、少年審判でも同じです。裁判所がキチンと対処し、おかしな逮捕状は突き返す、勾留請求を却下すれば、捜査機関も自ずとキチンとなります。このような考えは弁護士も同じでしょう。
関心のある分野
建築関係訴訟、主にマイホーム建築時のトラブルです。「家を建てると寝込む」という諺があります。建ててみれば分かります(私は寝込みませんでしたが)。土地の選定、建築業者の選定、基礎工事から内装等々全て大変。当時、「地盤調査をしたい」と言うと、不動産業者の中には「お買い求めになってから幾らでもどうぞ」(「買ってからしたらどうだ」との趣旨)などと言うところもあり、そんな場合は断ることにしていました。
一方、建築業者が工事途中で潰れないかをどう見分けるか。「役所に業者の状況が分かる資料がある」と書いてある本もありますが、同じ地域に住んでいればともかく、そうでない場合、往復の時間と業者の調査だけで1日かかります。
私は、業者の方に直截「御社の財務諸表を見せて頂けませんか」と依頼していました。素人で、財務諸表を見ても詳しくは分かりません。が、そう言って断る業者はこちらもお断りですし、潰れそうか位は素人でも分かります。ローンは一生もの。また、工事進捗につれ前の工事部分が見えなくなります。施主は大変です。
中でも一番気の毒なのは業者が潰れているときです。訴訟で勝っても、判決書はただの紙切れ、相手方は潰れてしまっており、損害賠償はしてもらえません。
同様のケースは他にもあるのか
あります。要するに、法律的解決も万能ではありません。例えば、相手方がヤクザで、しつこく因縁を付けてきたケースをどう解決するか。ヤクザの言う債務など存在しないということを裁判所に認めてもらうことは、色々大変ですが、通常の訴訟で可能です。
ただ、更に一歩進め、ヤクザの因縁付けがしつこく、そのため、まじめな通常の市民が精神的におかしくなったという場合、慰謝料など請求できるでしょうか、仮に慰謝料を認める判決が降りたとして強制執行が可能か。無職かつ所有する財産の存否もわからない者相手に。