
離婚や相続のトラブル解決に注力〜胸襟を開いて依頼者と向き合う 「重症化する前に、気楽に相談を」
トラブルの重症度に応じ適切にアドバイス
ーー弁護士を目指したきっかけや理由を教えてください。
30歳の頃に、ふと「何か資格を取りたい」と思ったんです。いろいろな士業の仕事について調べる中で、弁護士が一番自分に合いそうだなと感じて目指したというのがきっかけです。
大学時代は文学部で、弁護士になることは全く考えていませんでした。専攻はフランス文学。ただ、文学よりも哲学の方に興味があって、サルトルの小説をよく読んでいました。
ロースクールに入学した段階では法律の知識はほぼゼロでしたが、法律の考え方には哲学と共通する部分もあり、思ったよりもスムーズに勉強を進められました。
ーー注力分野と、その分野に注力している理由を教えてください。
案件として多いのは、離婚や相続などの家事事件です。企業関係の仕事も徐々に増えていますが、メインで手がけているのは個人の方からの依頼です。
家事事件は人間同士のいざこざなので、当事者だけで解決できる場合もあります。必ずしも弁護士が介入しなければならないわけではありません。実際に、離婚調停を自分たちだけで起こして円満に離婚される方もいます。
ただ、家事事件はケースごとにグラデーションがあります。病気で例えると、今ある症状が軽い風邪であれば、薬局で買った薬を飲んで治せるでしょう。でも、もっと重大な病気が原因で風邪のような症状が出ているのだとすると、医師の診察や検査を受けたりして、大事に至る前に対処した方がいいかもしれません。
相談者が抱えるトラブルを解決するために、弁護士が介入すべきかどうか。相談者へのはじめのアドバイスとして、その判断をするお手伝いはできるかなと思っています。
こぼれ落ちてしまった案件を拾い集める
ーー仕事をするときに心がけていることを教えてください。
依頼者の話を聞く際に、予断を持たず、決めつけないことです。なるべく意見を言わずに、聞き役に徹しています。
ロースクール時代に教わった実務家の先生方から、「大事なのは、ちゃんと胸襟を開いて依頼者の話を聞くことだ」とよく言われました。本人が話す内容を法的に評価するのは専門家の仕事だけれど、まずは事実ありき。事実を弁護士が勝手に変えたり、思い込みで解釈したりしてはいけないと教わって、自分でもその通りだと思ったので、意識しています。
ーーご自身が考える、弁護士としての強みや特徴はどんなところだと思いますか。
強みといえるか分かりませんが、「別の事務所に相談したときは冷たい対応だったけど、先生は優しくて安心しました」と言われることはよくあります。
私は学生時代からずっと法律家を目指していたわけでもなく、法学部出身でもないので、良くも悪くも門外漢なんですよね。もともと、世間の中心で活躍したいとは思っていなくて、むしろ、昔話に出てくるような「村はずれに住んでいてたまにいいことを言う人」みたいな存在に惹かれていて。
地元の名門校を出て弁護士になって、事務所を開いて…という典型的な弁護士のイメージからは外れていると思います。だからこそ、そういう弁護士が敬遠してこぼれ落ちてしまった案件を、1つ1つ拾って対応できればいいなと。そこが自分の特徴かもしれないです。
ーー弁護士として活動してきた中で、印象的だったエピソードを教えてください。
この人の人生に関わったんだなと一番実感できた事件があります。別居中の夫婦の、子どもをめぐるトラブルでした。お子さんはまだ赤ちゃんで、依頼者と一緒に生活していたのですが、別居中の夫が突然お子さんを実家に連れて行ってしまったんです。依頼者がどんなに頼んでも会わせてくれず、最終的に、子の引き渡しの強制執行をすることになりました。
依頼者と一緒に夫の実家に乗り込んで、「裁判所の判断どおり、子どもを妻に引き渡しなさい」と伝えて、その場で赤ちゃんを依頼者に引き渡すことができました。依頼者に、泣きながら「ありがとうございました」と言われたときは、嬉しかったですね。
もしも弁護士が介入しなかったら、依頼者はお子さんを自分の元で育てられないばかりか、会うことすら難しくなっていたかもしれません。そう考えると、依頼者の人生の深いところに関与できた事件だったなと思います。
手遅れになる前に、気楽に相談してほしい
ーープライベートについても伺います。休日の過ごし方や趣味を教えてください。
休みの日はもう、完全に子育てですね。子どもを公園に連れて行ったりしている間に、1日が終わります。
趣味は読書です。小説でも漫画でも実用書でも、なんでも読みます。最近、フランス語の勉強を始めようと思って本を買ったところです。大学時代に全然勉強しなかったので、その反省も込めて、少しやってみようかなと。
妻の知り合いの夫がフランス人なのですが、私がフランス文学を勉強していたことが妻経由で知られてしまったらしくて。ちょうどうちの子と同じくらいのお子さんがいて、家族ぐるみで会うこともあるので、多少は話せないと恥ずかしいなと思って勉強を始めました。
ーー今後の展望について教えてください。
今、特に関心があるのは、相続の予防法務です。具体的には、事業継承や信託などですね。いざ相続が始まったときに、相続人同士がトラブルなくスムーズに遺産分割するための対策に力を入れたいと思っています。
ーー最後に、トラブルを抱えて悩んでいる方へのメッセージをお願いします。
「こんなこと弁護士に相談していいのかな」という段階で悩まれる方はすごく多くて、相談者からも「思い切って電話しました」とよく言われます。
弁護士に対して、「1分相談したらいくら取られる」「相談したら絶対に依頼しないといけない」というイメージや疑いがあるせいで、手遅れになってからようやく相談に来られる方は少なくありません。
シンプルに言うと、あれこれ考えずに、「これってどうなんだろう?」と思ったら気軽に相談してください。それだけですね。手の施しようがなくなってから来ていただいても、「残念ですが…」としか言えないんです。そういう言葉をお伝えするのはすごく辛いので、トラブルが重症化する前に、気楽に相談してほしいと思っています。