
トラブルの芽をつみ、問題発生を防ぐことも弁護士の仕事 日常的に頼ってもらえる存在を目指して
学んだ法律知識を実生活の中で活かすため、弁護士を志す
ーー大学では人文社会学を学ばれていたそうですね。
福島大学の人文社会学群行政政策学類に在籍していました。ここを選んだのは、当時は司法書士を目指していたことと、法律だけでなく社会福祉なども学びたいと考えていたからです。
弁護士に興味を持ったのは大学2年生の頃です。行政法のゼミに入り、ゼミ対抗での法律討論会などを通して、知識として習得した法律を実際のトラブル解決にどう活かすかを学んだんですね。たとえば、ゼミ対抗の法律討論会では、医療事故の事案を題材に、与えられた証拠に基づいて、原告側の損害賠償請求の法律構成を検討し、意見を述べ合ったりしていました。
ゼミでの経験を通して、実際の社会生活に法律を活かすおもしろさを知りました。法律を駆使して、人が生きていくなかで遭遇するトラブルを解決したい。そう考えて、弁護士を目指そうと思ったんです。
口約束によるトラブルで、それまでの関係を台無しにしない
ーー人の生活と法の密接な関係を、多くの人はあまり意識していないですよね。
信号を守ることも法律ですが、それをいちいち「法に従って」とは考えません。法律をほとんど意識せずに暮らせるのは、みんなが当たり前に法のルールを守っているからであって、とてもいいことなのです。
ただ、それだけに、深く考えずに口約束で物事を進めて、あとで大きなトラブルに見舞われることもあります。「法律を知っている人がそばにいたら、こんな問題は起きなかったのに」と思うケースは多いです。
実際に私が手掛けた案件でこういうケースがありました。
以前からお付き合いのある業者同士で「あれ、今度やってよ」「いいですよ」という会話をし、請け合った方はすぐに資材を手配して具体的に動き出しました。ところが相手は「あれは単なる会話で、仕事を発注したわけではない」と言い出したんですね。請け合った側としては「じゃあ、うちが用意した資材や、準備にかかった時間や費用はどうなるんだ」ということでトラブルに発展してしまいました。
弁護士は、その場で書面を交わす、その場でなくても書面を交わしてから動き出すのが当然と考えます。しかし、一般の方の場合は、「今までも口約束でやってきたから大丈夫だろう。長年の付き合いで、信頼関係もあるし」と慣習や人間関係に重きを置いて書面を交わさず、その結果思わぬトラブルに見舞われてしまうことが少なくありません。
仕事の契約やお金が絡むことについては、条件や取り決めた内容をなるべく書面で残してほしいです。後になってトラブルが起きたときに証拠として使えますし、お互いが守るべきルールを明示することで、そもそもトラブルが起こることを防げます。
一度トラブルが起これば、それまで築いてきたいい関係もダメになってしまいます。ぜひ書面を交わすことの大切さを知っていただきたいですね。
依頼者の気持ちはもちろん、残された人の絆も考えた相続を
ーー法律は人間関係も守るのですね。
はい。それが顕著に現れるのは相続です。最近は遺言書を残したいという相談を数多く受けますが、私は遺言書というのは、「書く方と残された方との感情の絆」だと考えています。
もちろん、すべて、書く方の思い通りにできるわけではありません。でも、なぜそうしたいのかをじっくり聞き、その方の気持ちをできる限り反映させる方法を考えて、内容を練っていきます。ご本人の意思を尊重することはもちろん、残された方同士の関係も考えて作成することを大切にしています。
先ほどお話しした仕事の契約もそうですが、相続でも口約束でもめることは多々あります。事業承継や土地の相続といった大きな問題でさえ、そうした口約束で「成立した」と思ってしまう。それはある意味お互いの関係がいい、信頼し合っている証でもありますが、トラブル防止のためにはやはり書面にして、第三者も納得いく形にしておくことが重要です。
訴訟になるような問題を防ぐために弁護士がいる
ーー書面に残すことに対して、「水臭い」「信用していない」といったネガティブなイメージを持つ人が多いのかもしれません。
契約書には、自分の気持ちがちゃんと相手に伝わっているかを確認するツールという側面もあると思います。お互いの気持ちを最後まで尊重しあうために契約書を交わすのだと考えてみてはどうでしょう。
私としては、トラブルになってから弁護士に依頼するよりも、契約書を作成するときやサインするときにこそ弁護士に相談してほしいと思っています。そうすることで、起こりそうなトラブルを回避でき、相手との良好な関係を長く保っていけます。
弁護士を間に挟むのは水臭いことでもなんでもありません。相手と今後もいい関係でいるために、当事者同士では気づきにくい、将来の火種になりそうなことをチェックする存在として弁護士がいるんです。
弁護士は、何かあったときに訴訟を起こすことだけが仕事ではありません。問題が起こらないように、万が一起こっても、訴訟に至る前にさっと解決するために、日常生活の中でもっと気軽に弁護士を頼っていただきたいと思います。