冨増 四季 弁護士 インタビュー
弁護士を目指したきっかけ
私は、高校から大学にかけて計6年間をアメリカで過ごしました。日本に帰国するにあたり、自分の語学力を生かして、地域で困っている方々の力になれるような仕事をしたいと考えました。大学時代に、南アフリカで人種差別について学んだり、アメリカ南部を訪れて黒人の子どもたちとふれあう機会があったことが、こうした選択に影響したように思います。
今までの経験と現在の仕事内容
日常業務では、一般民事を中心としています。たとえば、外国人患者への医療過誤、TV番組予行中の熱中症案件、Instagramの国際的著作権紛争など、ユニークで多種多様な事件を担当してきました。また、外国人の依頼者が帰国した後に、電子メールやスカイプなどをフル活用して日本の裁判所での裁判対応を継続した案件がいくつもあります。
医療過誤の分野では、呼吸管理に問題のあった事案で主治医の反対尋問に成功して、勝訴的和解を勝ち取ったという事案があります。この他に、抗がん剤イレッサの弁護団事件で、有効性に関する医学文献(英文原著論文)の調査を担当しました。同じく弁護団事件ということでいいますと、朝鮮学校に対する嫌がらせ事件では100人近くの弁護団の事務局長として事件対応の舵取り役を担いました。
少年事件の担当数は最近減っていますが、子どもの権利への関心は持ち続けています。個別案件では共同監護や共同親権を目指すケースを複数担当してきました。その他、年数回、児童相談所の虐待ケース会議にも同席し、法的アドバイスをする活動にも従事しています。
刑事事件でも語学力を役立てています。強盗致傷事案の弁護で、英語しか話せない外国人被疑者を励ましながら、精神科の診察の実現、本国家族との連絡、示談交渉などに取り組んだ案件があります。結果、不起訴処分を得て無事本国に帰国できた、といった成果を挙げることができました。外国人被疑者の不起訴・母国への帰国を勝ち取った案件は、この他にも2件ほどあります。
被疑者弁護は時間との闘いです。弁護人が国境をまたいでコントロールタワーの役割を果たせること、即時に、通訳・翻訳を介さず各方面へのコミュニケーション態勢を構築できることは強みとなります。捜査機関としても、なるべくならば厳しい処分を回避したいと感じる案件などもあるようです。弁護人からの的確な情報提供により被疑者を取り巻く状況が正しく把握できてよかったと、検察官から感謝されるような事案などもありました。
外国人の依頼者に対して
基本的には対応は変わりませんが、外国人は日本の司法制度が分からなかったり、基本的な裁判に対する姿勢が根本的に違ったりすることもあり、日本の司法に対して不信感を持っていることが多いものです。そのため、納得していただくまでに繰り返し何度も説明しなくてはならないことが多々あります。
弁護士としての信条・ポリシー
どのような事件であっても、依頼者のお話をじっくりと聞き取り、当該事件の一番の問題がどこにあるのか見極めることが事件対応の出発点となります。
例えば、かつて注力していた少年事件の例で述べますと、まずは少年との対話を重視し、審判やその準備段階で、少年自身が、自分の運命を切り開く主役であることを実感できるような手続になるよう努めました。そのためにも、まずは少年自身の生活環境や交友関係について教えてもらう姿勢が重要となります。
少年事件でもそうですが、事案類型を問わず、弁護士としての対応を検討する前の段階で、まずは依頼者の視点ではどのように世界が見えているのか、というところを大切にしています。例えば、事業者間の契約紛争などであれば、まずは、依頼者の通常の業務内容、業界ならではの慣習や常識などを聞き取り、事件を立体的に理解する。個人案件であれば日々の生活実態といった背景を想像しながら、なぜ当事者相互での認識の齟齬や感情的対立が生じるまでに至ったか、などを考え抜いていきます。事案によっては、医学や物理化学、環境学など、専門家の意見を求めて勉強しながら問題点を見極めていく。ここまでやって、ようやく法律が正しく適用される素地が生まれ、適切な結論や落としどころがおぼろげに見えてくるのです。
話を聞いていくなかで、私たち法律家が普通と思っているものとは、全く異なる世界があることがわかってきます。この点を、裁判官に対してわかりやすく伝えていくことが効果的な弁護につながるわけです。もちろん、不法行為の解釈論や、医療水準や安全配慮義務の内容など、過去の裁判例から分析して法律論を組み立てていく作業は必須です。常に知的な刺激があり弁護士としてのやりがいを感じる瞬間ではありますが、決して弁護士が自分たちの価値観で正解を押しつけてしまってはいけません。事件の本質を見失ってしまいます。当該事件における具体的事実の検討こそが全ての出発点であり、法律論は、具体的な事実の積み重ねのなかで浮かび上がらせるように心がけています。
関心のある分野
一時期は、子どもの権利の問題、たとえば少年の更正や民族教育の問題に重点を置いていた時期がありました。もっとも、昨今、新事務所を開設した後などは特に、英語案件に業務の比重が移りつつあります。弁護士になった当初の思いに、原点回帰しているようにも感じます。
目下の関心事項は、差別事案への新たな対応モデルの構築への取り組みです。日本社会に情報発信し、さらには効果的な提言へと昇華できるように、マイクロアグレッションへの対処や、ヘイトクライムと修復的司法について、米国の新聞報道やシンポジウム動画などをもとに情報を収集しています。