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2015年08月17日 13時00分

海外から逃れてくる「難民」――「日本は認定のハードルが高すぎる」と弁護士が批判

海外から逃れてくる「難民」――「日本は認定のハードルが高すぎる」と弁護士が批判
渡邉彰悟弁護士

戦争や民族紛争、宗教的迫害などで母国から逃れてきた人々。それらの一部は日本に来て、難民申請を行っている。日本国内で2014年に難民申請を行った人たちは5000人にのぼるが、そのうち、日本政府に難民と「認定」されたのは、わずかに11人にすぎない。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の資料によると、2014年に難民申請をした人は、世界中で166万人で、うち27%が難民認定されている。一方、日本の認定率はわずかに0.2%。認定率は世界平均の100分の1にも満たない。

日本の難民認定はなぜ、こんなことになっているのか。1992年からビルマ(ミャンマー)難民の認定申請を支援しており、法務省の「難民認定制度に関する専門部会」の委員も務めた渡邉彰悟弁護士に聞いた。

●「国が認定しなくても、難民は難民」

——難民認定される人数が極端に少ないのは、なぜでしょうか。

日本で難民認定をしているのは、法務省入国管理局(入管)です。

入管の難民認定基準は「ハードルが高すぎる」という問題があります。認定率0.2%という数字は、その結果です。

——どんな問題があるのでしょうか?

「難民」の定義は、難民条約によると、次のような条件を満たしている人のことです。

人種、宗教、国籍、特定の社会的集団の構成員、政治的意見の5つのいずれかの理由(重複も可)によって「迫害を受けるおそれ」があること、国家の保護を受けられないこと。

本来、UNHCR発行の難民認定基準ハンドブック(以下UNHCRハンドブック)には、「人は、難民条約の定義に含まれている基準を満たすやいなや同条約上の難民となる」「認定の故に難民となるのではなく、難民であるが故に難民と認定されるのである」と記されています。

これは極めて重要なポイントです。つまり人は、条件を満たせば自動的に「難民」になるわけです。そのため難民認定は、国際統一基準で行おうとする努力がなされています。

ところが、日本の基準は、あらゆる面で、国際的に通用しているスタンダードよりも厳しい。他の国なら難民認定されるような人が、日本で認定されないのは、法務省のこのような運用のなせる業です。

——日本は日本。「日本の基準」で難民を受け入れるのだ、という考えは通用しませんか?

日本は、難民条約に加盟しています。日本も批准している『条約法に関するウィーン条約』もあります。条約の解釈は、批准した各国において、基本的に同じでなければなりません。

条約をどのように解釈するかを決める権限が各国にあるという議論もありますが、それは決して、恣意的な解釈をしてよいということではありません。「日本の基準」論は、国際的に通用しないと思います。

難民条約の締約国である以上、「日本固有の基準」は許されません。

●日本の「難民認定基準」のどこが問題か?

——「ハードルが高い」というのは、具体的にはどんなことなのですか?

あらゆる点でハードルが高いのですが、まず「迫害を受けるおそれ」という要件について触れたいと思います。

入管は、難民申請者が、本国の政府によって監視・把握されている、あるいは関心を持たれていなければ、難民とは認めないという運用をしています。

しかも、申請者自身が、客観的な証拠によってそれを立証しろと求めます。

これは、難民認定の国際基準とはかけ離れたもので、私たちは「個別的把握論」と呼んで批判しています。

難民申請者たちは、まさに「迫害のおそれ」から逃れてくるわけです。客観的な証拠を持っているほうが稀であるといっても、過言ではありません。

当局から個別的に把握されているかどうかを、客観的に立証できる人など、そうそういません。迫害のおそれを感じている人が、わざわざ自分の行動記録を残すと思いますか。

難民申請者は通常、自らの供述以外は、ほとんど証拠を持っていないものです。だから、各国の認定機関は、申請者の供述の信ぴょう性を判断するため、出身国情報の分析に腐心しているのです。

ところが、今の日本の姿勢は、「その人が確実に迫害される」ことの証明を求めているようなものです。

その国の状況をきちんと分析すれば、その人が迫害される可能性を、ある程度評価・判断することはできます。しかし、実際に誰が捕まり、誰が捕まらないのかを確実に判別し、証明することのできる人などいるわけがありません。

だからこそ、「迫害されていること」ではなく、「迫害のおそれがあること」が、難民の定義となっているのです。入管の解釈は,難民の特質を度外視したものとしか言いようがありません。

●「驚き」の棄却理由

先日、政治的迫害を受け、ある国から逃れてきた人が、次のような理由で、難民認定を却下されました。これを読んだときは驚きました。

「反政府デモに参加したことが事実であるとしても、その態様は大勢の一般参加者の一人にすぎず、また、これまで、それを理由として、政府による逮捕、抑留、拘禁等の事実がないことからすれば、今更、本国政府が同人を特定してその動向を注視しているとは考えられない。異議申立人が、その主張するとおり、帰国して反政府デモに参加するなどした場合、そのデモの最中に攻撃されるといった危険性があることは否定できないとしても、それは、そのようなデモに参加した人一般の問題であって、異議申立人に固有の危険性ではなく…」

デモの最中に攻撃される危険性があるのに、はたして「迫害を受けるおそれがない」と言えるのでしょうか。

難民条約では、迫害を行う主体は、基本的に政府・国の当局だと想定されていますが、現実にはそうでないケースもあります。

UNHCRのハンドブックでは、迫害の主体が政府でなくても、政府がそれを容認していたり、効果的な保護を与えない・与えられない状態のときには、迫害にあたるとしています。

しかし、入管は「効果的な保護ができない状態」ではなく、「無政府状態」でなくてはならないという基準を示すことすらあります。

実際に、ネパールのマオイストから迫害を受けた人の申請が、こうした理由で認められなかったことがあり、私たちは愕然とさせられました。

●難民認定の難しさ

難民たちの中には、十分な教育を受けていない人もいることに、留意しなければなりません。

たとえば、ミャンマーの少数民族ロヒンギャの人から話を聞くと、ほとんどの人は当初の陳述の中に強制労働のことを記述していないのですが、後日詳しく内容を聞いていくと「強制労働」も体験していることが判明するケースが多々あります。

これを聞いて「供述を変えるなんて怪しい」と思うのは間違いです。

こうなってしまう背景には、ロヒンギャの人たちが日常的に強制労働をさせられていて、それを人権の抑圧として意識できていないことや、強制労働をさせている当局から「これは奉仕活動だ」という説明を受けていることなどが、背景としてあります。

難民には言葉の壁もありますし、性的虐待の記憶やPTSDが供述を難しくしているケースもあります。

我々法律家は、刑事裁判や民事裁判で、「証明」の程度について学び、慣れ親しんでいます。しかし、難民認定をする際に、同じようなレベルの立証を求めることは、現実的ではなく、難民法の領域の独自性があります。難民問題に関わる実務家は、このことを強く意識する必要があります。

●「出入国管理」と「難民認定」は原則が真逆

私はそもそも、出入国管理を基本業務とする「入管」という組織が、難民認定をすること自体に、無理があると考えています。

もし、何らかの退去強制事由があれば外国人を送還するのが、出入国管理のメインの仕事です。

しかし、難民の場合、送還してはならないのが原則です(ノンルフールマン原則)。これは真逆の作用です。

出入国管理部門と難民認定部門の人事は独立しておらず、相互に異動があります。難民認定をする入管職員のマインドの基本に「出入国管理」があって、職務遂行に大きな影響を与えていると思います。

●日本の認定率は10%でもおかしくない

私が所属する「在日ビルマ人難民申請弁護団」では、1992年からビルマ(ミャンマー)からの難民申請を受任しています。この20年以上の間に延べ約600人の申請をして、198人の難民認定を受けました。その多くは長い裁判の結果、難民不認定の処分が取り消されたケースです。

私はビルマのケースだけではなく、トルコ国籍のクルド人や、スリランカ、ネパール、中国でも、もっと保護すべきたくさんの難民がいると思います。

日本の難民認定の判断には、政治的な考慮も働いています。かつての法務省内部の研修教材は友好国Aと非友好国Bとで、認定のありかたに違いを設けることを正面から論じていました。こうした運用は厳然と生きていると思います。

たとえば、クルドのケースでは名古屋地裁で、スリランカのケースでは大阪地裁で、それぞれ難民不認定の処分が取り消されました。

しかし、このいずれのケースも入管の一次審査に戻され、結局、再度不認定処分とされました。そこには合理的な理由を見出すことはできません。「なんとしても認定しない」という入管の強い姿勢を感じ取ることができます。

いま、シリアから逃れてきた人たちやロヒンギャ民族は、ほとんどが難民として認定されてもおかしくない人たちです。最近は、アフリカからの申請や、LGBTの申請者も増えています。こうした人たちをきちんと難民認定するためには、彼らが置かれた状況を、きちんと把握することが必要です。

もし、国際的な基準で難民認定をすれば、日本においても、少なくとも申請者のうち10%前後の人たちが、難民として認定されてもおかしくないと、私は考えています。

●「難民申請」の処理に時間がかかりすぎる

——難民認定率が低いのは、いわゆる「偽装難民」の申請が多いためという指摘もありますが?

まず、前提として「偽装」かどうかの認定は慎重でなければならないと思います。日本で働きたいということ、すなわち稼働目的と、難民として保護を求めることは、矛盾するものではありません。人が人として労働することも、人間の尊厳に基づく行為として当然だと思います。

今般、法務省が発表した第5次出入国管理基本計画案では、難民認定制度が悪用されているという指摘があります。

難民性がないのに、難民認定制度を利用して、働こうとする人たちがいることは否定しません。しかし、それを理由にして、難民の保護をおろそかにするという方向性には賛同できません。

真の難民が、日本で働きたいと考えて、難民申請をすることには、何の問題もありません。入管が問題にしようとしている濫用者の問題は、難民認定制度の枠を超えた問題であり、外国人労働者をどう受容するのかということは、基本的に難民認定と切り離して考えるべき問題です。

はじめになすべきことは、適正かつ迅速な「難民認定制度」の確立です。それこそが濫用防止につながるということをUNHCRも繰り返し指摘しており、私もその考えに賛成です。

●認定の「質」高める努力を

——適正・迅速な認定のためには、どんなことが必要ですか?

難民認定をする機関の独立性と、認定機関の専門性をできるかぎり高める努力が必要です。

難民法の領域では、証明の程度、供述の信ぴょう性、立証責任など、あらゆる場面で難民申請者の負担を軽減するための解釈が構築されてきています。

他方、日本では、申請者が一点の曇りのないところまで詰め切らなければ、難民認定を受けられない。なぜ日本だけ、これだけ遅れてしまっているのかという思いを強くします。

保護すべき人を迅速に保護すれば、処理待ちの案件が減ります。処理待ちの案件が減れば、もっと審査が素早くできるようになります。

認定の「質」を向上させるためには、やはり、UNHCRとの協力関係の一層の強化が必要だと思います。

裁判官も、難民法裁判官国際協会(IARLJ)の会合に自主的に参加するなどして、難民法に関する知見を深めていただきたいですね。

法務大臣の私的懇談会「第6次出入国管理政策懇談会・難民認定制度に関する専門部会」が、2014年12月にまとめた報告書には、こうした議論も盛り込まれています。その方向で改善が進むことを期待しています。

いまは、最終的に難民認定がされる案件ほど、認定までに時間がかかっています。日本の難民申請者たちは、難民認定されるまでの間、「いつ強制送還されるかわからない」という不安な日々を、長期間にわたって送ることになっています。

そのせいで精神疾患を発症してしまう人たちの姿を、私たち弁護士は目の当たりにしています。申請者は、本国での苦難に加えて、日本の制度のために二重に苦しめられている側面もあるわけです。そうした申請者たちのためにも、一日も早く、適正な基準に基づく、具体的で現実的な保護を実現したいと思います。

(弁護士ドットコムニュース)

渡邉 彰悟(わたなべ・しょうご)弁護士
90年代初頭から難民への法律問題支援を続けており、難民認定や外国人の入国・在留手続に詳しい。在日ビルマ人難民申請弁護団代表、全国難民弁護団連絡会議代表を務める。
所在エリア:
  1. 東京
  2. 新宿
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