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「結婚できないのは、親のせい」不安煽り、契約迫る「親の婚活」紹介業者が横行
国民生活センター

「結婚できないのは、親のせい」不安煽り、契約迫る「親の婚活」紹介業者が横行

未婚の子を持つ親に対して、電話での勧誘や家庭訪問をきっかけに結婚相手紹介サービスを契約させ、その結果、中途解約や返金をめぐるトラブルになったという相談が、全国の消費生活センターに多数寄せられている。

結婚紹介サービスをめぐるトラブルは,啓蒙活動によって年々減少してきているが、2017年は独立行政法人「国民生活センター」に寄せられた親が関与したトラブル相談のうち、訪問販売・電話相談勧誘がきっかけとなった相談の割合が52.2%に達している。国民生活センターでは、「焦る親心につけ込む結婚相手紹介サービス業者にご注意ください」と注意喚起している。(ルポライター・樋田敦子)

●「子どもが結婚できないのは、親がしっかりしないから」

筆者の周囲にも頭を抱える親子がいた。今春、東京都で一人暮らしをしているサラリーマンの山本啓介さん(36歳、仮名)は、広島県に住む母親が、何組ものカップルを成婚させている地域の女性に3万円を支払い、結婚相手を紹介してもらうようにしたという。

「お宅の息子さんは、大手に勤務していて年収もいい。すぐに釣り合う相手を紹介してあげますよ」

甘い言葉につられて、家にあった手持ちのお金を支払った。女性は地域では、仲人として有名で、山本さんの母親は、知人の紹介で知り合ったが、半年以上も経つのに、1人の女性も紹介されていない。それを聞いて山本さんは、詐欺に遭ったのではないかと思ったという。しかし母親が「何か事情があって遅れているだけ。そのうち連絡があるはず。近所の手前もあり、大事にはしたくない」との一言で、黙ってしまった。

「母は女性に『子どもが結婚できないのは、親がしっかりしないから』と言われ、結婚紹介をお願いすることにしたようでした。3万円は捨てたものと思っている、と母は話していました」

●なぜトラブルが発生しているのか?

国民生活センターの相談を見ていきたい。同センター相談情報部の丸山琴野さんに現状を聞いた。

そもそも結婚相手紹介サービスとは、事業者が消費者に結婚を目的として異性を紹介することを役務としている。これは特定商取引法の対象になっており、消費者は契約の途中でも解約できる。役務を提供している業者には、書面交付の義務、不実告知や威迫困惑行為などの、不適切な勧誘行為の禁止、8日間のクーリング・オフの適用が定められている。契約期間は2か月を超え、金額は5万円以上が対象となる。

なぜトラブルが発生しているのだろうか。丸山さんは次のように話す。

「この業界に参入規制がないことが一因です。相談を見ると以前から習慣的に地域の仲人をやっていた人の中には、自分が結婚相手紹介サービスをやっているという認識がなく、法律を守らずにやっていることでトラブルになっているケースも見られます。もちろんきちんと守っている業者も多いですが、中には事実でない説明をして契約を結ばせようとする業者もいるのです」

その信頼性を向上させるために、一般社団法人日本結婚相手紹介サービス協議会(JMIC)も発足しているが、参入規制もなく、さまざまな業者いる玉石混合ともいえる状況です。

しかも、電話や家庭訪問をきっかけに、親に契約を迫っているケースが目立つ。2015年の国勢調査で、50歳までに一度も結婚をしたことがない人の割合を示す生涯未婚率は、男性23%、女性が14%に上昇。男性の4人に1人、女性では7人に1人が生涯未婚となり、前回調査の2010年から大幅に増えた。

また厚労省の人口動態統計によれば、2015年の平均初婚年齢は、男性が31.1歳、女性が29.4歳。初婚の年齢は少しずつ遅れてきている。こういった未婚化、晩婚化の傾向を受けて、業者も巧みに親心を刺激しつつ勧誘をしているのだ。

「マスコミでも、親も婚活する時代と報道されています。それが成功している例もあり、未婚の子を放っておかずに、親も婚活しなければいけないと言われると、そうなのかと思ってしまいがちです。しかも親心につけ込み、契約すれば結婚できる、と誤認させるようなことを言う業者もいます。あくまで異性を何名か紹介するサービスなので、契約すれば必ず結婚できるとは限らないので、誤解しないようにすべきです」(丸山さん)

●トラブル事例

前述の通り、トラブルには中途解約や返金のトラブルが多い。相談の中で実際に支払った額は平均で43万8000円、最高額は約800万円だった。国民生活センターに寄せられた具体的なトラブル事例を見ていこう。

<事例1>

自宅に業者から勧誘の電話があり、登録料、情報提供料、月会費を一括して約10万円支払う契約だった。持ち合わせがなく一部を払ったが、不安を感じて知人に相談したところ、クーリング・オフ期間だから解約したほうがいいと言われ通知したが、「解約は認めるが、登録料がかかっているので受け取った金は返さない」と言われた。(契約当事者、70代女性)

丸山さん「このように、クーリング・オフをめぐる問題が多い。『子どもには黙っておくように』と言われクーリング・オフ期間を過ぎてしまったケースや申し出たのに全額返金されないケースも見受けられました。解約を申し出ても高額な違約金を請求されるケースもありました。

特商法の特定継続役務提供の場合、クーリング・オフの期間経過後も将来にわたって解約することは可能です。その際に受けたサービスの対価を支払うことになります。業者と消費者の間で、提供した、されていないと、サービスの内容に違いが生じることも多いので、事前に確認しておくことが必要です」

<事例2>

「私が仕事で留守にしているときに、自宅にいる母親に対して業者から電話があった。母は断ったが『娘が結婚しないのは親の責任だ』と母を責めるような口調で話し、自宅まで絵勧誘に来た。結婚する気がないことを伝えたところ、『娘に内緒で契約したらいい』と。このような勧誘をきっぱり断りたい」(40代、女性)

丸山さん「業界団体の認証制度の認証基準では結婚当事者が独身であることを求めており、認証を取得している業者なら、役所が交付する子どもの『独身証明書』を必要書類に挙げています。今回のように、娘に黙って契約を勧誘するケースは複数ありますが、子どもが知った時点でトラブルになっています。特商法では、断っているにもかかわらず再度勧誘することは、禁止されています。『断った後の再勧誘は違法ですからやめてください』と伝えてください」

<事例3>

業者からの電話があり、未婚を心配した両親が、この業者を訪ねてほしいと懇願。業者を訪れて会員登録した。しかし相手を紹介されたが、うまくいかずアジア系の外国人を紹介された。来日した際に気が合い、結婚することになったが、成婚料として250万円を支払うように言われた。事前に何の説明もなかった。話が進んでいるので、困惑している。高すぎる」(40代、男性)

丸山さん「日本人との結婚を前提としていたのに、途中からアジア系の外国人を紹介されて結婚を決意した途端に国際結婚だからと高額な成婚料を請求されるケースがみられます。契約時に渡された契約書には国際結婚に関するサービスの内容や費用について記載がないこともあり、同意した契約内容でなければその旨を業者に主張してください」

こういった親婚活のトラブルに遭わないためには、親子での話し合いが重要だ。親子で結婚について考えを一致させておく。コミュニケーションを日ごろから取っておくことだ。

丸山さん「消費者側も、これで必ず結婚できるだろうという認識だとトラブルにつながりやすい。結婚相手紹介サービスは、結婚させることを約束するものではないので、絶対結婚できると勧誘する業者とは契約しない。トラブルがあれば、全国の消費生活センターに相談してください」

子どもの将来を心配する親の気持ちも分かるが、子どもの気持ちを尊重しつつ、待つことも大事だ。子どもは、自分に内緒で親が婚活トラブルに巻き込まれていないか、双方が気遣うこと。全員が必ずしも結婚しなくていい時代だ。結婚適齢期という死語のようなフレーズに騙されないでほしい。

【著者プロフィール】樋田敦子(ひだ・あつこ)ルポライター。東京生まれ。明治大学法学部卒業後、新聞記者を経て独立。フリーランスとして女性や子どもたちの問題をテーマに取材、執筆を続けてきた。著書に「女性と子どもの貧困」(大和書房)、「僕らの大きな夢の絵本」(竹書房)など多数。

(弁護士ドットコムニュース)

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