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TBS「ホームレス報道」問題、水島教授「バラエティに仕立て、何の意味があるのか」
上智大学の水島宏明教授

TBS「ホームレス報道」問題、水島教授「バラエティに仕立て、何の意味があるのか」

TBS番組「白熱ライブビビット」(1月31日放送)が、ホームレスの男性を「犬男爵」「人間の皮を被った化け物」などと紹介し、TBSが番組やホームページ上で謝罪する事態に発展している。

上智大学の水島宏明教授(テレビ報道)や支援団体のメンバーらが3月13日、厚労省記者クラブで記者会見を開き、ビビット以外にも4つの番組で、この男性のことが扱われていたことを明かした。

水島教授は、「いずれも『ホームレスけしからん』という『小さな正義』を振りかざす報道ばかりで、構造的な問題を取り上げたものはなかった。ジャーナリズムとして何の意味があるのか」と、番組制作の問題点を指摘した。

●「社会問題ではなく、バラエティー的に仕立てている」

この男性は都内の河川敷で20匹ほどの犬とともに生活しており、一部の地域住民との間であつれきが起こっていた。ビビットは、男性を「人間の皮を被った化け物」などとイラスト付きで紹介。放送後、不適切な表現方法や、男性に対し、登場シーンで怒りの言葉を放つなどの「やらせ」を依頼していたことなどを謝罪している。

水島教授らによると、TBSはビビットのほか、2番組で監視カメラなどを使い、男性のプライバシーを侵害しかねない撮影をしていたという。また、他局でも、男性を取り上げた番組があったそうだ。

「ホームレスの人が、河川敷を不法占拠していると言われればそうかも知れない。犬のことが近隣の迷惑になっていたのかも知れない。しかし、それは報道しないといけない問題なのか。

取り上げるにしても、支援団体や専門家に話を聞けばいいのに、パッと取材して、バラエティー的に仕立てている。貧困の問題には複雑な背景事情があるのに、ホームレスの人への偏見・無理解を生みかねない」(水島教授)

●支援団体は「襲撃」を助長しないか懸念

今回の放送に対しては、野宿生活者の支援団体も強く抗議している。ホームレスの人たちへの「襲撃」という現実的な危機感があるからだ。

支援団体が2014年に実施したアンケート調査では、ホームレスの人たちの約4割が通行人らからの暴行や暴言を受けたことがあると回答している。中には、襲撃によって命を落とす人も。

「この20年間で、22人もの野宿生活者が襲撃によって殺されています」と語るのは、一般社団法人「ホームレス問題の授業づくり全国ネット」の北村年子代表理事。北村理事の団体では、ホームレス状態の人たちへの偏見をなくすため、出前授業などを行なっている。

「襲撃しているのは、主に10代の子どもたち。なので、当事者の人たちと学校現場に行って、実態を伝える活動をしています。今回、ホームレスの人たちへの悪印象を助長するような番組が放送されたことで、子どもたちが現地に行って石を投げないだろうかと、切羽詰まった思いでいっぱいになりました」

北村理事は、番組で放送された男性とも知り合いで、講演を依頼したこともあるという。「襲撃される側のつらさ、悔しさを涙ながらに話していただき、子どもたちの共感を呼んでいました。今回の番組はメディアによるいじめ。襲撃に等しい暴力だと思っています」

支援団体は、番組の放送で、男性の居住区域が特定されかねないことを問題視している。実際、関連性は不明だが、男性の小屋には石が投げ込まれており、付近で放火騒ぎも起きているそうだ。

●メディアへの提言「社会の問題として扱って」

認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやいの大西連理事長は、メディアに対し、次のように要望している。

「男性がホームレスじゃなくて、サラリーマンや主婦ならこんな描き方ができたでしょうか。制作側に、差別や消費する意識がなかったか、考えてほしい。貧困問題を扱う際は、個人の問題としてだけではなく、そこに至る背景を踏まえたうえで、社会の課題として受け止めてもらいたい」

なお、今のところ、男性側はBPO(放送倫理・番組向上機構)への申し立ては考えていないという。

(弁護士ドットコムニュース)

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