谷萩 陽一 弁護士 インタビュー
弁護士を目指したきっかけ
大学生の時に、学生が地域に出かけて法律相談をする活動に参加したり、公害や労働問題などの弁護士が活動する社会問題に関するルポルタージュを読んで議論する読書会のようなサークルに参加していました。
私自身法学部ではあったのですが、それまでは弁護士の仕事に漠然としたイメージしか持っていませんでした。しかし、そうした活動に参加する中で、実際には当事者の方が法律に書いてある権利を必ずしも主張できるわけではなく、当事者同士で励まし合ったり、弁護士が支えたりすることではじめて権利が実現できるということがわかってきました。
そうした活動をしていた先輩の弁護士の話を実際に聞いたりもしました。そのような、社会的に弱い立場にある人たちの権利を守っていくような活動に自分も関わりたいと思うようになり、具体的になりたい弁護士像を固めていきました。
今までの経験と現在の仕事内容
一般の民事、家事、刑事事件が中心です。民事事件は交通事故の賠償や金銭の貸し借りなどの所謂民事取引の事件があり、家事事件は離婚事件を比較的たくさん扱っています。刑事事件は最近の裁判員事件も何件か扱っていますが、特に最近は布川事件という再審で無罪を勝ち取った事件に関わってきました。
特色のある事件としては、元々労働事件をやりたいと思っていたので、労働者側での労働事件を扱っています。労働組合の事件もあれば、個人の労働者の労働審判等の事件もやっています。
また、八ッ場ダムや霞ヶ浦導水事業の差し止めの裁判といった住民側での行政事件も扱っています。
弁護士としての信条・ポリシー
特別なことはないのですが、依頼者の方に誠実に接することですね。特に弁護士は自分が法律も裁判も知っているので、注意しないと上からものを見たり、言ってしまうおそれがあります。そうではなくて依頼者の方に寄り添って仕事をすることが大切です。
ただ、全部依頼者の言うことを聞くのではなく、こちらからもきちんと言うべきことは伝えるのですが、そうした信頼関係を作っていくことを大切にしたいと思っています。それは一番難しいところで、自分が訴えたことを聞いてもらえないとか、頭ごなしに否定されてしまうといった、弁護士に対する不満は時々聞きます。
弁護士側にも言い分があるとは思いますが、依頼者の人が納得できる説得のしかたや、信頼できる接し方をしなくてはならないと思います。
長年携わっている冤罪事件(布川事件)について
元々布川事件そのものは刑事事件で、再審で無罪になった事件です。再審を開始させるには新しい証拠を出さなくてはなりませんでした。弁護団の中で鑑定などをやって新しい証拠も出したのですが、そのほか、有罪判決が確定するまでに検察官が公判に提出していなかった証拠をかなり開示させることができました。それが無罪を勝ち取る力になりました。
本来無罪になるような証拠が隠されていたために、無実の2人が40年以上苦しみ続けた、この点が大きな問題でした。また、2人はやっていないのに、どのようにやったかという自白調書を詳しく作られてしまいました。
最近の遠隔操作ウイルス事件でも、やってもいない人が何故やったのかという動機まで自白してしまう、という同じようなことが起きています。今の刑事裁判をよくするには、ただ無罪になっただけでなく、何故えん罪が起きたのか、どこに問題があったのかを明らかにさせる必要があると思います。
しかし、布川事件については警察や検察庁はそれをやろうとしないので、民事裁判でそこをきちんと解明していく必要があると、桜井さん自身も思っていました。そうした原因を明らかにさせるためにこの裁判を提訴しました。
これからどうなるかわかりませんが、今度はこちらが原告で何故冤罪が生まれたか立証しなければならなりません。それは簡単なことではありませんが、これまで開示させてきた証拠や今までの公判の過程で警察や検察がどのような対応をしてきたのかというところはこちらにも相当資料がありますので、そうしたものを出しながら裁判所に判断を求めていきたいと思います。
冤罪事件について、現在の司法における問題点
布川事件は40年前の事件ですが、40年前と同じようなことが今でも起きていることが問題です。東電OL殺人事件も遠隔操作ウイルス事件の事件でも、警察がこの人が犯人ではないかと一定の見込みを立てると、その見込みに基づいて強制的に自白させてしまいます。
東電OL殺人事件のゴビンダさんは自白はしませんでしたが、十分な証拠の吟味をしないで、警察や検察庁が有罪だと思った人物を起訴してしまいます。その一方で被告人の無罪を立証できるような肝心な証拠は隠されたままになってしまっています。
弁護人側にはどんな証拠があるのか検察官が出してきた証拠しか見られず、こういう証拠があるはずだと開示を求めてもなかなか開示されないということがこれまでありました。そのために冤罪が生まれてしまっていました。
これはゴビンダさんの事件でもありましたし、布川事件では正にそれが非常に大きな問題になっていました。証拠開示については新しい刑事訴訟法が改正されて昔よりはよくなっていますが、それでも完全ではありません。その辺りをきちんと改善させていく必要があります。
また、遠隔操作ウイルス事件でも自白してしまった人がいましたが、無理に自白に追い込むような取調べが今でも行われていて、これについては取り調べを録画・録音したり、弁護人の立会いを認めたりしないと冤罪がまた生まれてしまうと思います。