裁判官として500件超の遺産分割事件を手掛け、その経験をもとに依頼者にとって最良の解決に導く
正義感と郷土愛が弁護士を志したきっかけ
ーー弁護士を目指したきっかけや理由についてお聞かせください。
高校生の頃、知り合いの家族が交通事故被害に遭い、まったく過失がないのに、相手方に押し切られて不当な条件で和解させられたと聞きました。その時に、こういう人たちを守れる立場になりたいと思ったのがきっかけのひとつです。
また、当時存在していた沖縄県独自の司法試験制度が廃止になることも理由の一つでした。日本全国共通の司法試験を受けなければ弁護士になれないとなった時、予備校などがない沖縄で弁護士になれる者はいなくなるだろうと言われていたんです。
それならば自分が弁護士になって沖縄のために尽くそうと思いました。正義感と郷土愛。この二つが弁護士を目指した大きな理由です。
ーー司法試験合格後に弁護士ではなく裁判官になられたのはなぜですか?
司法修習で弁護士、検察官、裁判官の仕事を経験してみて、事件の判断を最終的に下す裁判官は正義を直接実現する仕事だと感じ、もっとも自分の良心に従ってできる仕事だと思ったんです。
それと、私が司法修習を終える頃には沖縄出身の弁護士も増えていて、弁護士よりも少ない裁判官になる方が郷土への貢献になるだろうと考え、裁判官になる決意をしました。
裁判官から弁護士への転身
ーー14年間裁判官を務めた後に弁護士に転身された理由を教えてください。
一つは家族のためです。裁判官には転勤があるため引っ越しが多く、転校を余儀なくされた子どもには苦労をかけていました。子どもが受験をする歳になり、これ以上転校させるのは良くないだろうと退官を考えました。
もう一つの理由はプレッシャーからの解放でした。一緒に働いていた裁判長が亡くなられて葬儀に参列した時に、遺影を見ながら「楽になられたんだろうな」と思ってしまったんです。
それまで裁判官の仕事をつらいと考えたことはありませんでしたが、「死んだら楽」と考えている自分がいることに気づき、知らないうちに仕事のプレッシャーを感じていたことを自覚しました。
裁判官の判断に間違いがあってはなりません。常に自分の判断は正しいと思いながら仕事をしていましたが、本当に正しかったのだろうかと自問自答することもありました。
上訴されて再審で同じ判決が出れば、自分の判断は間違っていなかったと思うことができます。しかし、多くの事件はそうではありません。「その判断は正しい」と他の誰かにジャッジされることもなく、自分が下した判断に責任を持ち、向き合わなければなりません。
そうしたプレッシャーからいったん自分を解き放とうと考えて、裁判官の職を離れようと決断したんです。
裁判官はとてもやりがいのある仕事です。その気持ちはいまも変わりません。同時に、当事者の近くで事件に対応する弁護士の仕事もやりがいを感じます。
弁護士は早い段階から事件に関わることができ、裁判になる前に解決することもできるのが裁判官との違いであり、魅力だと思います。
ーー弁護士に転身されてから裁判官との違いに戸惑ったことはありますか?
はじめのうちはなかったです。依頼者の話を聞いて裁判官だったらどう判断するだろうという視点を持ちながら対応することができました。ズレを感じ始めたのはいくつか事件を経験してからです。
ある時、自分の情報に偏りがあることに気づいたんです。当然なのですが、弁護士は依頼者からの情報を重視しています。その情報を元に裁判官の判断を想定しても、両者の意見を聞いて判断する裁判官とはズレが生じるんです。
そこに気づいてからは、偏りがあることを前提に依頼者の話を聞いて情報を整理することで、ズレをなくすことができるようになりました。
裁判官の経験は大きな強みになっています。裁判所がどういう過程で判断するのかがわかるので、依頼者に何をしてもらえばいいかも容易に伝えられます。
弁護士になる人は一度裁判官を経験しておくと良いのにと思うことがあります。
誰よりも証拠の重要性を理解しているので、事実確認を怠らない
ーー注力している分野を教えてください。
裁判官時代に遺産分割専門部に在籍していた経験を活かせるので、相続分野に注力しています。受任する案件の約8割を占めています。
遺産分割部では裁判官1人あたり年間170件ほどの事件を担当していたため、3年間の在籍期間で500件以上の事件を扱い、遺産分割に関わるたいていの問題は経験しました。
相談の段階で争点がわかり、展開を予測することができます。依頼者から「こんなに詳しく先の見通しまで説明してくれる弁護士は他にいなかった」と言っていただけるのも、裁判官時代の経験が活かされているからだと思います。
ーー仕事をする上で心がけていることを教えてください。
あらゆる可能性を考えることと、事実の裏づけを怠らないことを心がけています。
例えば、遺産分割協議書に依頼者の署名捺印があるのに、本人はサインをした覚えがないと言っているーー。裁判官時代であれば、依頼者が嘘をついていると判断したと思います。
もしかしたら、依頼者は遺産分割協議書と知らずにサインをしたのかもしれない。だとすれば、サインした覚えがないという依頼者の発言は嘘ではなく真実になります。
可能性を考えるだけでなく、事実の裏づけも重要になります。依頼者の言葉が真実だとしても、証拠や証人など裏づけできる材料がなければ意味のない主張になってしまいます。
裏づけがあるか一つ一つ吟味することは、依頼者からしてみれば証拠をつぶしているように思えるかもしれませんが、裁判官の経験上、証拠の重要性は誰よりも理解しているので、事実確認は怠らないようにしています。
ーー趣味や休日の過ごし方について教えてください。
学生の頃と裁判官時代は琉球空手とテニスをやっていました。どちらも弁護士になってからはやる機会がなくなってしまって、最近はゴルフの練習をしています。
まだコースに出たことがなく打ちっぱなしに行くくらいなのですが、もともと体を動かすことが好きなので、いい運動になっています。
休日は映画を見たり孫の動画を見たり、妻とドライブをして過ごしています。
ーー今後の展望についてお聞かせください。
将来のことよりも、目の前の事件をしっかり終わらせていくことを第一に考えながら活動していこうと思っています。
遺産分割が専門分野になったのは自分が決めたのではなく、インターネットに掲載されている経歴などを見た依頼者が決めてくれたと思っています。そうした期待に今後も応えて行くつもりです。
ーー最後に、トラブルを抱えて悩んでいる方へメッセージをお願いします。
先のことがわからないから不安になるのだと思います。解決が困難な問題だったとしても、その先に何があるのかわかれば不安は解消されます。
相談していただければ一緒に考えることができますので、法律問題や人間関係でつらいと思ったら、悩まずに相談して頼ってみてください。