長浜 宏治 弁護士
なお、使用者側企業にとっては、労働者が感情的かつ攻撃的で、その言い分の合理性に欠け、話し合いによる円満解決の可能性が見えないのであれば、労働者側からの審判申立てを待って、その審判手続によって解決を図るのが得策であるもいえるでしょう。実際、職員がハラスメント被害を主張しているものの、公正に調査した結果、その主張に合理性がなく、むしろ、その職員による、法人や特定の上司に対する嫌がらせと評価できるような事案もありました。この事案については、その労働者の職場での言動によって業務に支障が出る都度、適正かつ妥当な懲戒権を行使する一方で、露骨に不満を示す労働者に対して、法人を相手にして審判の申立てや訴訟の提起を希望する旨を伝え、裁判上の手続においての解決を望むということをはっきり示すことを教示しました。 概して、それなりの規模の企業であれば各別、小規模の事業主は、労働者から主張された不満に納得できない場合、勢い、解雇などの強硬手段を望みがちです。しかし、そもそも、労働基準法をはじめとする労働関係法令は、労働者保護をその趣旨とするものである以上、やむを得ない特段の事情もないのに使用側が強硬手段に出ることは、自分で自分の首を絞めることにしかなりません。使用者側が率先して健全な職場環境を作るということは、紛争当事者でない他の勤勉な労働者の利益になるのみならず、企業の発展に資するものであることを自覚し、慎重かつ地道に、トラブルメーカである労働者に接することが肝要です。このことは、上記事案の使用者に方のみならず、相談に来られる小規模事業主の方々に、お伝えしているところです。3 裁判外での交渉による解決 使用者が一定の規模を備えた組織であり、従業員の労働問題について対応するセクションや窓口がある場合には、交渉による解決策を選択する方が、時間と費用が節約でき早期解決を得られる可能性が高いといえます。使用者側の担当者も会社組織の一員であり、通常、労働者の直接的な紛争相手である同僚や上司が交渉相手になるということはありません。むしろ、直接の紛争相手が交渉に立つような企業は、健全な企業組織とはいえませんので、審判や訴訟という裁判上の手続で解決していくことになるでしょう。 実際、有期労働契約労働者であった依頼人が、契約更新を望み(まだ就労期間が5年未満でしたので無期契約の変更はできない事案でした)、現在と同じ職場での就業と待遇を希望していたという事案でした。会社側に若干の労働時間と休日の管理について不備があったものの、依頼人である労働者側にも、若干、責められても仕方のない事情がありました。当初は、依頼人が自ら会社側の人事担当者に要望を伝え交渉したものの、うまく話合いができなかったので、私が代理人として会社と交渉しました。具体的には、事を穏便に進めるべく内容証明郵便ではなく、要望書という形で書簡を本社人事部へ送り、先に依頼人の要望を明確に伝えた上で、電話会談を通じた後、直接部長クラスの人事担当者と面談し、双方、譲るべきところは譲りつつ、従前同様の待遇で契約更新という円満解決で終結しました。この事案は、依頼人が強く相手方会社での勤務を望んでいたことと、会社側が一定の組織と規模を備え、コンプライアンスにも配慮している法人であったことが、冷静かつ穏便な交渉を可能にしたものです。このように一定の規模と組織を備えている会社であるならば、就業を継続することが依頼人の生活の安定につながりますので、冷静かつ穏便に対処していくことが大切であるといえます。
労働問題 ~①はじめに ②裁判上の手続を通じての解決 ③裁判外での交渉による解決~の
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