Interview

誰一人取り残さない社会へ。「二割司法」の解消をめざす弁護士ドットコム事業が描く未来

Service

弁護士ドットコム

  • #弁護士
  • #マーケティング
  • #法律相談

誰一人取り残さない社会へ。「二割司法」の解消をめざす弁護士ドットコム事業が描く未来

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登録弁護士数2万7000人以上(2024年4月時点)を誇る日本最大級の法律相談ポータルサイト「弁護士ドットコム」。弁護士ドットコム事業といえばメディアの運営というイメージがありますが、近年はそれだけにとどまらず、弁護士の業務支援にも力を注いでいます。長年にわたりさまざまな取り組みを続ける先に見据えるのは「二割司法の解消」という目標。創業から20年近く経ったいま、どれだけ目標に近づいたのでしょうか。弁護士ドットコム事業本部 本部長の島津忠昭と、サービス開発部 部長の森川哲夫に聞きました。

【Profile】
島津忠昭(弁護士ドットコム事業本部 本部長)
大学卒業後、野村證券に入社。主に中小企業の経営者を対象として営業のキャリアをスタートさせる。次に入社した外資系の医療機器販売会社では、医師への営業を担当。2014年10月、弁護士ドットコムに入社。セールスとして、弁護士向けのソリューション提案営業を担当。その後、関西支社の立ち上げやプロダクトマーケティングの責任者、インサイドセールスチームの立ち上げなどを経験。その実績が認められ、現在は弁護士ドットコム事業部の本部長として全体を統括する。

森川哲夫(弁護士ドットコム事業本部 サービス開発部 部長)
比較サイトや口コミサイト運営会社などで、Webディレクターやプロダクト・マネージャーとしてサービス開発に携わる。2020年3月、弁護士ドットコムに入社。弁護士が依頼者からの相談案件の進行管理をする業務システムの開発に携わる。現在はメディア運営を中心としたサービス開発部の部長を務める。

法律に関心のない人から今すぐ法律相談をしたい人まで様々なユーザーとの接点を設計

島津忠昭(弁護士ドットコム事業本部 本部長)

──まずは、おふたりがこれまで弁護士ドットコムにどう関わってきたのか教えてください。

島津:僕が弁護士ドットコムに入社した2014年は、まだ会社が非上場で社員数は40人ほどの規模。弁護士ドットコム事業が会社の屋台骨でした。ちょうどサービスが大きく成長していたタイミングで、上場という大きな目標に向けて、一人でも多くのユーザーに使ってもらおう、一人でも多くの弁護士に登録してもらおうと、スタッフ全員が一丸となって力を尽くしていましたね。

数字で言うと、弁護士ドットコムに有料会員として登録してくれている弁護士の数が、2014年3月時点では685名だったのが、その年の12月には1420名と倍以上に。とにかく目標を達成しようとみんながひたむきにがんばった結果、無事に上場することができました。

その後、さらにスピード感をもって事業を拡大していくなかで、西日本にも営業拠点が必要だよねという話になり、僕が大阪支社の立ち上げを任されることになりました。立ち上げがうまくいったあとは営業企画やプロダクトマーケティングなどの責任者を歴任し、2023年に弁護士ドットコム事業本部の本部長になりました。

森川:私は島津さんよりはずいぶん遅れて、2020年4月にWebディレクターとして弁護士ドットコムに入社しました。入社時は弁護士が依頼案件の進行管理をスムーズにおこなうための業務システムを開発するチームに配属されましたが、弁護士が依頼者とオンラインで面談できるツールが必要だよねという話が社内で持ち上がり、急遽、私が取り組むことになりました。

島津:ちょうどコロナ禍で初めて緊急事態宣言が出されそうな時期だったんですよね。それで、入社したばかりの森川さんが中心となって、開発チームと一緒にサクッとつくってくださった。

森川:入社したのが2020年の3月で、オンライン相談サービスをリリースしたのが5月だから、最初に配属された案件管理のシステムを開発するチームには実質的に1カ月くらいしかいなかったんですよ。チームのメンバーと合宿をしたりして、そちらにも思い入れがあったのですけど(笑)。

島津:案件管理システム開発チームのメンバーとして入社したのに、気がつけば他のチームで活躍していた。とにかく爆速でメディアの責任者になられた印象があります。

──弁護士ドットコム事業本部が手がけるのはどんなビジネスなのか、あらためて教えてください。

島津:弁護士を探しているユーザーと弁護士をつなぐプラットフォーム「弁護士ドットコム」を運営しています。一般的に、マッチングサービスにはマッチングに成功した場合に一定の報酬を得る「成功報酬型」でマネタイズするものが多いと思いますが、報酬を目的とする弁護士の仲介は弁護士法で禁じられています。

そこで弁護士ドットコムでは、メディアの掲載枠に対し、弁護士の先生方から情報掲載費用を月額でいただくかたちのビジネスモデルを採用しています。その方式だと閲覧者の多いメディアでないと弁護士の先生方が登録してくれないので、われわれにとってはまずユーザーが大事。多くの人に訪問してもらうため、だれでも無料で法律相談できる「みんなの法律相談」や、ニュースメディア「弁護士ドットコムニュース」など、ユーザーとのタッチポイントを数多く設けています。


森川:一番ユーザーが身近に感じるタッチポイントが「弁護士ドットコムニュース」ですよね。時事ネタをもとに取材する専属チームが即座に記事にしてニュースを配信し、ふだんは法律に関心のない人たちにも興味を持ってもらえている。

それよりももう少しターゲットを絞ったタッチポイントが「みんなの法律相談」です。弁護士の先生に今すぐ直接相談したいわけではないけれど、何か不安を抱えていらっしゃって、掲示板に質問を書き込んだり他の相談者の掲示板でのやりとりを見ることによって不安を払拭したい方々に利用してもらう。

そして、さらに緊急度の高い法的トラブルや切実な問題を抱えている方に、弁護士検索で弁護士の先生を見つけてもらう。そんなふうに弁護士ドットコムニュース→みんなの法律相談→弁護士検索の順番で、ユーザーと法律の接点が密接になっていくメディア構成になっています。とくに私の部門では、みんなの法律相談と弁護士検索という、法律トラブルを抱えた方々に向けたサービスを担っています。

ちなみに、弁護士ドットコムはどれくらい利用されているかというと、「みんなの法律相談」の累計相談件数は約130万件、有料会員数は18万人以上、多くのユーザーに利用いただいています。

島津:一方、弁護士のほうに目を転じると、みなさんに同じ月額費用をいただいて情報を掲載しても、うまく集客できる人と、なかなか集客につなげられない人が出てきてしまいます。そんなときは弊社の営業担当者が相談者をうまく集められていない弁護士の先生にヒアリングを実施して魅力を深堀りし、弁護士ドットコムに掲載している情報に反映してページを改善していく。要するに弁護士の先生方のマーケティングのお手伝いのようなことをしているわけです。

弁護士ドットコムが多くの弁護士から支持されている理由とは

森川哲夫(弁護士ドットコム事業本部 サービス開発部 部長)

──森川さんはこれまでに複数の比較検討サービスや口コミサイトのサービスに携わってきました。そうした一般的な比較検討サービスと弁護士の比較検討サービスの違いを感じることはありますか?

森川:いちばん大きな違いは弁護士による司法サービスは個別の無形サービスだという点ですね。結婚式場の比較検討サービスを手がけていたときは、費用や写真といったユーザーの比較軸がある程度ありました。弁護士選びにはそれがないんですよ。いわば、比較検討するときのセオリーがないんです。

弁護士ドットコムでは今のところ弁護士の顔写真や初回の相談料、事務所の場所、営業時間などの基本情報を掲載するほか、一行のPR文でどんな弁護士なのかをアピールするようにしています。ただ、相談者が限られた情報から自分の状況にぴったりマッチングする弁護士を探してもらうのは、難しいと言わざるをえません。

島津:そこは営業の腕の見せどころだと思っていて、弁護士の先生のPR文をつくる際、「どんな分野が得意ですか?」という質問だけでなく、「どんな想いで、何を大切にして仕事をしてますか?」と聞いて先生方の個性や特徴を引き出そうと心がけています。ときには「なぜ弁護士になったのですか?」とキャリアの原点にまで遡り、弁護士としての熱い思いを織り交ぜた原稿をつくることもあります。

──弁護士ドットコムは弁護士の比較検討サービスのパイオニアですが、近年は同様のサービスを提供する競合も複数あります。そんななか、最大規模の登録弁護士数を維持し、つねに厚い支持を獲得している理由は何だとお考えですか?

島津:リーディングカンパニーとしての長く濃い歴史、単独で好き勝手に活動するのではなく、法曹界のみなさんと一緒に歩みともにサービスを成長させてきた実績を評価いただいているのだと思います。おかげさまで、ある種のブランドを確立することができた。

それと同時に、やはりサービスを評価していただいてる部分も大きいのかなと。われわれは先ほどご紹介した弁護士の先生のマーケティング支援だけでなく、弁護士の業務支援サービスも展開しているんです。

森川:冒頭で触れた、私が最初に配属されたチームも業務支援の担当ですね。すでにお伝えしたとおり、そのときは弁護士の先生が相談案件の進行管理をスムーズにおこなうための業務システムを開発していました。

島津:ちなみに業務支援で今もっとも勢いがあるのは「弁護士ドットコムLIBRARY(弁護士ドットコムライブラリー)」という、弁護士のための法律書籍・雑誌を閲覧できるサブスクリプション型リーガルリサーチサービスです。マーケティング支援と業務支援の両面で弁護士の先生方をサポートしている会社はほかになく、われわれの強みのひとつになっていると思います。

すべてのサービスは二割司法解消のために存在する

──弁護士ドットコムは運営開始当初から「二割司法の解消」を理念に掲げています。「二割司法」とは何なのでしょうか?

島津:世の中には法律トラブルに遭い弁護士を必要としてる人たちがたくさんいます。ですが、弁護士に相談や依頼をすることに敷居の高さを感じたり、費用に不安を感じたりといった理由で、実際に司法サービスにアクセスできる人の割合は全体の2割に過ぎず、8割は泣き寝入りを余儀なくされています。その状態を指すのが「二割司法」という言葉です。

われわれとしては、そこの割合を上げ、十割司法を目指したい。弁護士ドットコム事業部が展開するすべてのサービスはそのために存在すると言っても過言ではありません。

──2005年に弁護士ドットコムがスタートしてから約20年。その間に弁護士ドットコムは知名度の高いメディアになり、登録弁護士数もユーザー数も飛躍的に伸びました。運営する側として、「二割司法」が解消されてきたと実感することはありますか?

島津:法律に興味を持ったり、弁護士を身近に感じる人たちは間違いなく増えたと自負しています。一方で、長年にわたってさまざまな取り組みをしてきたからこそ見えてきた課題もあります。

そもそも二割司法の大きな要因は、一般の人が弁護士と接点を持つ機会が少なかったり、弁護士のことを詳しく知る手段がないことでした。そこでわれわれは、メディアを立ち上げて弁護士にまつわる情報を収集し、周知しようと努めてきた。結果的にその取り組みは一定の成功を収め、弁護士ドットコムは多くのユーザーと弁護士を繋ぐことができたわけですが、どうやらそれだけでは二割司法は解消しなさそうだと考えています。

なぜかというと、弁護士の先生ってとっても忙しいんです。われわれが法律トラブルを抱えたユーザーを連れてきても、弁護士の先生のほうに余裕がなく、新規依頼を追加で受けられるような状況ではなかったりするんですね。そうすると、弁護士を探している人が弁護士と巡り合ってても、弁護士に依頼を受けてもらえないユーザーが出てしまう。

そんな状況を打破するには、メディアを運営するだけではなく、弁護士の先生の業務支援や業務効率の改善にもっと注力する必要があるのではないか。先ほどお話ししたような業務支援のシステムやサービスを使ってもらうことで、新たな依頼に応える時間を弁護士にもたらすことができるのではないかと考えるようになったわけです。

ただし、弁護士の業務支援を含めた現状の取り組みがすべてうまく機能したとしても、誰ひとり取り残さない社会──たとえば“十割司法”が達成された社会が実現する日はまだ果てしなく遠いというのが正直な感想です。であれば、ユーザーが自力で法律トラブルを解決できるようなサービスをつくればいいんじゃないか。最近はそれもまたわれわれの役割だと感じています。

「みんなの法律相談」は、そのための取り組みのひとつです。今のサービスをもっと進化させて人びとのリーガルリテラシーを底上げし、ユーザーが自力で法律のトラブルを解決したり、弁護士のわずかな支援で解決できるような世の中になれば。そんな理想の社会を思い描いています。

──あらためて、弁護士ドットコム事業は社会貢献度の高いすばらしいビジネスですね。おふたりが仕事にやりがいを感じるのはどんなときですか?

島津:長年営業をしていると、弁護士の先生やユーザーの方々からたくさんフィードバックをいただく機会があります。

弁護士の先生から「弁護士ドットコムに登録したおかげでこれまでになかったタイプの依頼者との出会いが増えた」と言われれば、その先生の理想の実現に少しは力添えできたのかもしれない、そして法律トラブルに悩む方がまたひとり救われたかもしれないと嬉しくなります。

また、みんなの法律相談や弁護士検索のユーザーから「このサービスがあって本当によかった」と直接言ってもらうこともあって、本当に大きなやりがいを感じます。法律相談って、人の人生に関わる問題であることが多いので、そうした言葉の数々が、今も昔もビジネスを推し進めるうえでのエンジンになっている気がしますね。

森川:私も島津さんとまったく同じ意見なのでそれ以外のことを言うと、リーガル領域って個別の事象や解釈の余地によるところが大きくて、「こうすればいい」という明確な正解を導き出せないことが多いんです。

それはさっき言った、他業界と比べてセオリーみたいなものを見つけにくいジレンマとも似ているのですが、一方で難しいからこそブレイクスルーできたらおもしろいだろうなという期待感があって、それがやりがいになっています。

ブレイクスルーするためには、今展開している弁護士ドットコムのサービスに替わる次世代の新しいプロダクトが必要かもしれない。サービスを作っていくものとして、その課題感とチャレンジングな精神はつねに持ち続けていたいと思っています。