Jリーグ・浦和レッズの主催試合で「JAPANESE ONLY」という横断幕が、レッズのサポーターによって掲げられた問題をめぐり、Jリーグは、3月23日開催の浦和のホームゲームについて、観客を入れない「無観客試合」とする処分を下した。
「日本人以外お断り」。そう受け取れるこの横断幕について、Jリーグは「差別的内容」と認定。浦和レッズが過去に類似したトラブルで制裁を受けていたことにも触れたうえで、試合終了まで横断幕を撤去しなかった浦和レッズの責任は非常に重大だ、と処分理由を説明した。
この処分に対して、チケットを買ってしまったサポーターからは「チケットを返金するべきだ」という声や、それ以上の損害賠償を求める声が出ている。遠方に住むサポーターが試合を見るために、ホテルを予約していた場合もあるだろう。チケット代に加え、ホテルのキャンセル代などの賠償を求めることができるのだろうか。田沢剛弁護士に聞いた。
●試合を実施して観客に見せるのが「主催者の義務」
「試合観戦のためのチケット販売契約は、主催者が試合を実施してこれを観客に見せ、観客が主催者に対して対価を支払うことを主な内容とする契約です。
主催者がその義務を履行しなかったり、その責めに帰すべき事由により義務を履行できなくなった場合には、債務不履行となります。その場合は、契約を締結した観客(チケット購入者)は、主催者に対し、これにより生じた損害の賠償を求めることができます(民法415条)」
田沢弁護士はこのように、民法のルールを解説する。
今回の場合、浦和レッズが対応不備の責任として、「無観客試合」の処分を受けたわけだから、観客が試合を観戦できなくなった責任は浦和レッズにあるといえそうだ。こうしたルールからすれば、チケットの返金が認められるのはもちろん、それによって生じた他の損害の賠償も請求できるということになりそうだが・・・。
「大量販売されるチケットについては、『チケット規約』が設けられているのが通常で、チケット購入者はこの規約に同意したものとして扱われます。
規約では、主催者側の都合により興業が中止となった場合につき、チケット代金の払戻しは認めても、それ以上に、旅費等の払戻しまでは認めていないことが一般的です」
●チケット規約と「消費者契約法」との関係は?
それでは仮に、「主催者の都合で興業内容の変更があった場合、チケット代金の払戻しは行うが、交通費、宿泊費等の返金は行わない」という規約があったとして、チケットの購入者がこうした規約に反論する余地はないのだろうか。
「この点、消費者契約法8条1項2号では、事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する条項は無効だ、と定めています。そして、この場合の債務不履行は、その事業者の故意または重大な過失によるものに限る、とされています」
このように田沢弁護士は説明する。
「したがって、もし債務不履行(無観客試合)が、主催者側の重過失に基づくものだということになると、チケット購入者に生じた損害の賠償義務の一部を免除する規約は無効ということになり、結局のところ、本来賠償すべき金額の全額を賠償しなければならない、ということになります」
そうなると、ポイントは、その事態を招いた原因が、主催者側の「重大な過失」だったかどうかになってきそうだ。
もし、重過失で賠償されるという話になったとしたら、たとえば、ホテルのキャンセル代はどうだろうか。
「ホテルのキャンセル代についてですが、遠方に居住している方が試合観戦のためにホテルに宿泊するということは、通常あり得ることでしょう。そうした方が一般的なホテルを予約していたというケースであれば、やはり賠償の対象となるものと考えられます」
浦和レッズは公式サイトで「当該試合のシーズンチケット及びご購入いただきましたチケット(入場券)の取り扱い等につきましては、3月18日(火)に当サイトにてお知らせさせていただきます」とアナウンスしている。ここでどんな発表があるのか、注目が集まりそうだ。