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浦和レッズ「差別的横断幕」問題 「試合中に撤去できなかった」主催者の責任は?
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浦和レッズ「差別的横断幕」問題 「試合中に撤去できなかった」主催者の責任は?

「JAPANESE ONLY」――「日本人以外お断り」といった差別的な意味と受け取れる横断幕がサッカーのスタジアムに掲げられ、物議を醸している。3月8日に埼玉スタジアムで行われた浦和レッズ対サガン鳥栖の試合で、サポーターが張ったとされる横断幕の写真がネットで広がり、波紋を投げかけている。

問題の横断幕が掲げられたのは、レッズ側のサポーター席へ入るゲート前。掲げた人物や具体的な目的は公になっていないが、来場者が出入りするゲート入口に日本国旗と並べてあったことから、ネット等では外国人排斥の意味合いで捉える向きが強い。

浦和レッズの発表によると、横断幕について報告があったのは、試合開始から1時間たった17時ごろ。事態を確認して、スタッフに「速やかに撤去」するよう指示したが、試合中だったため、掲示した人物に接触できず、約1時間後になって強制的に撤去したという。

このような対応については、「サポーターから抗議があったのに試合終了まで放置した」と批判する声も出ている。では、今回の事件で、試合の主催者である「浦和レッズ」に法的責任はあるのだろうか。たとえば、外国人のサポーターが「横断幕のせいで精神的に傷つけられた」として慰謝料を請求したら、認められる可能性はあるのだろうか。齋藤裕弁護士に聞いた。

●外国人の観戦を排除したわけではない

「精神的に傷つけられたことを理由とする損害賠償は、特定の個人が攻撃ないし排斥されたような場合には、認められる可能性があるといえます」

このように齋藤弁護士は、精神的な損害賠償の一般的な原則について、説明する。

「この点、外国人の宝石店への入店を拒否したことについて、損害賠償責任を認めた裁判例(静岡地裁浜松支部1999年10月12日判決)や、外国人の温泉の利用を拒否したことについて、損害賠償責任を認めた裁判例(札幌地裁2002年11月11日判決)があります。これらは、店や施設の従業員が実際に『特定の外国人』の利用等を拒否した場合についてのものです。

しかし、今回の浦和スタジアムのケースは、事情が異なっています。

スタジアム内の誰かが『日本人以外お断り』という内容の横断幕を掲げただけだと、それが特定の個人を攻撃しているものかどうか不明ですし、外国人の観戦を実際に排除したわけではありません。したがって、基本的には、主催者側の損害賠償の問題にはならないと思われます」

齋藤弁護士はこのように述べる。こうした横断幕に問題があるのはもちろんだが、現時点で判明している事情だけで、主催者側に法的な責任があるというのは、難しいのかもしれない。

●「漫然と放置すれば」責任が生じる

それでは、スタジアムで差別的表現が行われたようなケースで、試合の主催者側に法的責任が生じる場合はあるのだろうか?

「スタジアムでどのような応援が許されるかについては、スタジアムの秩序維持の観点から、主催者が決めることができると考えられます(名古屋地方裁判所2010年1月28日判決)。

ですから、主催者はサポーターに対する不法行為がなされないような利用規則を作成する義務を負っています。仮に、『特定のサポーター』に向けられた差別的表現を知りつつ、漫然と放置したのだとすれば、主催者がその特定のサポーターに対して、賠償義務を負うこともあり得ると思います。

ただ、今回の件については、試合中に掲示した人物に接触できなかったということであり、漫然と強制撤去を遅らせたと言うのは難しく、主催者の賠償責任を認めるのは難しいでしょう」

このように齋藤弁護士は、浦和レッズの賠償責任までは認めづらいのではないかと語る。

ただ、レッズはウェブサイト上で、「差別を想起させる発言と行為」があったことについて謝罪するとともに、「今回の事案を極めて深刻に受け止め、差別的な発言などに関する対策をより強化していきます」と表明している。今後、どのような対策をとるのか注目される。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

齋藤 裕
齋藤 裕(さいとう ゆたか)弁護士 さいとうゆたか法律事務所
刑事、民事、家事を幅広く取り扱う。労災・労働事件、個人情報保護・情報公開に強く、新潟市民病院医師過労死訴訟、トンネルじん肺根絶訴訟、ほくほく線訴訟などを担当。共著に『個人情報トラブル相談ハンドブック』(新日本法規)など。

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