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酔いが覚めるまで「山手線」乗りっぱなしで睡眠、どんな法的問題がある?
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酔いが覚めるまで「山手線」乗りっぱなしで睡眠、どんな法的問題がある?

外は寒いので、快適な電車内で時間潰しーー。大学生のSさんは、バイトの夜勤明けから、授業が始まるまでの合間の時間を電車内で過ごしているそうです。

Sさんは、バイト先の最寄り駅から電車に乗車。2時間くらい、行ったり来たりしながら、時間を潰し、授業が始まる前の時間を見計らって、学校の最寄り駅に向かっています。

同じようなことを東京都内のあるIT企業の会社員Kさんもやったことがあるそうです。明け方までの飲み会で、とても家まで帰る余力がない、という時に、JR山手線(環状線)の電車に乗って、回復するまでひたすら眠っていたそうです。

本来の移動目的とは異なるこのような乗車方法に、どんな法的問題があるのでしょうか。甲本 晃啓弁護士に聞きました。

●「不正乗車」として、定期回収や増運賃を求められる可能性も

そもそも、座席数の少ない通勤電車の座席を占有して、時間つぶしや寝床代わりにすることは、乗車マナーとして適切ではないと思われますが、今回は法的問題に絞って考えてみましょう。

私たちが電車に乗る際,法律上は鉄道会社との間で旅客輸送契約を結び,鉄道会社はこの契約に基づいて私たちを輸送し、私たちは運賃を支払っています。この契約の内容は旅客営業規則」などの約款で定められており、運賃の計算方法も定められています。上記の事例の問題点は、実際に乗車した経路に対応する運賃を支払う必要があるのに、支払っていない点です。以下、詳しく見てゆきましょう。

まず、夜勤明けから授業開始までの時間を電車で過ごしているSさんは、実際に乗車した経路に応じた運賃を支払う必要があります。

例えば、Sさんが東急電鉄の溝の口駅〜大岡山間の定期を持っていたとしましょう。自宅近くの溝の口駅から大井町線に乗り、大岡山駅では降りずに終点大井町まで乗り通し、折り返して大岡山駅まで戻った場合、定期券の区間外である大岡山駅〜大井町駅間の1往復は「区間外乗車」として、往復運賃(320円)を窓口で精算する必要があります(東急電鉄旅客営業規則19条2項)。

もちろん、たまたま寝過ごして乗り越して本来の目的駅へ戻る場合は、「誤乗」として扱われますので、追加運賃は必要ありません(同規則291条)。

Sさんが日常的に「区間外乗車」をして精算せずに改札を通過しているとすると、約款上は「不正乗車」として扱われます。まず定期券は無効として回収され、さかのぼって実際に乗車した期間および区間の正規運賃の3倍の「増運賃」の支払いを求められる可能性があります(同規則168条1項11号、265条3号)。この「増運賃」は1ヶ月でも4万円ほどになります。

他方で、寝るためだけに山手線を何周も乗車したKさんも、実際に乗った周回数に応じた運賃を支払う必要があります。山手線1周あたりの運賃は280円とされているようです(JR旅客営業規則第157条2項により隣駅を往復する運賃で計算)。Kさんの事例も「不正乗車」として3倍の「増運賃」の支払を求められる可能性があります(同規則264条1項)。 このように、法律上は、本来の移動目的以外で、同じく区間を何度も電車に乗車した場合、実際の乗車経路に対応する運賃を支払う義務があります。フリーきっぷ等の例外はありますが、乗車経路通りに精算をしなければ「不正乗車」となるので、注意が必要です。

余談ですが、何十年も昔、東京駅と大垣駅(岐阜県)との間を夜行普通列車が走っていました。私が学生の時分に「青春18きっぷ」で、東京からこの列車に乗ったときのことです。

静岡を過ぎると、見慣れぬ風体の人たちが乗ってきたのを覚えています。聞けば、名古屋近辺から上り列車でやってきて、下り列車に乗り換えてまた名古屋近辺へ折り返し、毎日の寝床代わりに使っているとのこと。確かに、漫画喫茶もない時代でしたから、冷暖房の効いた環境で過ごすためには、全線乗り放題の「青春18きっぷ」を使えばリーズナブルだったのでしょう。都市部以外は自動改札機もなかったようなおおらかな時代でしたから、皆さんが正規の運賃をきちんと払っていたのか、疑問に思う気持ちもありましたが、今となっては確かめる術がありません。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

甲本 晃啓
甲本 晃啓(こうもと あきひろ)弁護士 甲本・佐藤法律会計事務所
理系出身の弁護士・弁理士。東京大学大学院修了。丸の内に本部をおく「甲本・佐藤法律会計事務所」「伊藤・甲本国際商標特許事務所」の共同代表。専門は知的財産法で、著作権と特許・商標に明るい。鉄道に造詣が深く、関東の駅百選に選ばれた「根府川」駅近くに特許事務所の小田原オフィスを開設した。

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