中国で鳥インフルエンザの拡大が進んでいる。4月下旬には台湾で初の感染者が確認され、国外への感染拡大が懸念されている。現在では鳥からヒトへの感染のみ確認されているが、WHOはヒトからヒトへの感染も警戒している。日本への上陸を心配する声も多い。
これは新型だが、従来型のインフルエンザも油断はできない。発症すると高熱や筋肉痛等を伴い、高齢者や乳幼児については肺炎などを起こして死に至る場合もある。流行に備えて、事前にワクチンを打ったり、マスクを身に付け、手洗い・うがいを励行するなど、日頃から予防につとめている人も多いのではないのだろうか。
弁護士ドットコムにも「同僚にインフルエンザをうつされた。慰謝料を請求できるか」という相談が寄せられている。確かに、積極的に感染予防に励んでいる人がいる一方で、特に対策をしていない人もいるのは事実だ。インフルエンザをうつされて欠勤を余儀なくされたり、入学試験を受けられなくなったりするなどの被害を受けた場合、うつした人に慰謝料などを請求することはできるのだろうか。また、一般のインフルエンザと鳥インフルエンザで、何か違いはあるだろうか。古賀克重弁護士に聞いた。
●「この人にインフルエンザをうつされた」と裁判で証明するのはほぼ不可能
——慰謝料を支払ってもらうための条件とは?
「かみ砕いた言葉でいうと、慰謝料を払ってもらえるのは『誰かが故意で、もしくは不注意で行った行為の結果、自分に損害が発生した場合』です。法律的には『不法行為に基づく損害賠償請求』(民法709条)といいます」
——つまり、同僚にうつされたら、お金を支払ってもらえる?
「そのためには、自分が受けた損害が他人の故意や不注意だと、証明しなければなりません。裁判では『おそらく』は通用しません。実際には、職場や通勤中の電車内など、無数にインフルエンザウイルスの感染者がいる中から『この人からうつった』と証明するのはほぼ不可能です。つまり現実的には、慰謝料はもらえないと考えてください」
——では、それが鳥インフルエンザウイルスだったら?
「現時点では、鳥インフルエンザの人への感染は『家禽からごくまれに起こる』と指摘されているだけ。人から人への感染については、医学的に明らかとは言えない状況です。その意味でも『他人にうつされた』という因果関係を証明するのは、より難しいでしょう」
古賀弁護士はこのように「犯人捜し」の無意味さを示したうえで、「鳥インフルエンザのように話題の感染症の場合、過剰に反応すると、患者に対する不必要な差別や偏見を助長することもある」と指摘。「もちろん患者は他人に感染させないよう休養や治療をすべきでしょうが、周囲も騒ぎすぎず、社会全体として冷静な対応をすべきでしょう」と警鐘を鳴らしていた。