「人間失格」などで知られる作家・太宰治の中高生時代のノートや日記が今年5月、報道陣に公開された。東京の日本近代文学館に寄贈されていたもので、ノートには太宰が影響を受けたとされる芥川龍之介の名前を書き連ねたページもあり、「文学的に貴重な資料」ということだ。今秋には一般への公開も予定されている。
このように、亡くなった著名人の日記や手紙などが公開され注目をあつめることは多いが、本人にしてみれば、他人に見せたくないものだった可能性もある。むしろ、多くの場合、日記や手紙などは第三者に見られないことを前提に書くものだろう。
著名人に限らずとも、他人に見られたくないものはあるだろう。日記や手紙はもちろん、携帯電話やハードディスクの中にあるデータを、文字通り、「死んでも他人に見せたくない」という人もいるのではないか。そのような人のために、近ごろでは死後にハードディスクの中身を自動で消去できるソフトもある。
はたして、故人のプライバシーは法的にどのような扱いになっているのだろうか。どうしても見られたくないものがある場合どうすれば良いのか。中村憲昭弁護士に解説してもらった。
● 「墓場から裁判を起こすことはできない」
「死者のプライバシーも一定程度、尊重されます」
中村弁護士はこのように説明する。ここでいう、「一定程度」はどこまでを指すのだろうか。
「プライバシー侵害の多くは『名誉権』の侵害というかたちで表れるでしょうから、第三者による侵害行為があれば、遺族が慰謝料請求をすることはありうるでしょう。プライバシー侵害が予想される場合には、その行為の差し止めを求めることができる場合もあります」
一方で、中村弁護士は「生きている人とまったく同じように保護されるわけではない」と付け加える。
「たとえば、死者に対する『名誉毀損』は、『虚偽の事実』を摘示することによって、なされた場合でなければ、罰せられません(刑法230条2)。また、亡くなった後に本人が権利行使をすることもできません。
遺族が故人の意思に反して日記や手紙を公開することもありえますが、その場合、亡くなった方としては、なす術がないのが現状です。墓場から裁判を起こすことなどできませんからね」
●恥ずかしい思いをしたくなければ、「遺言」などで準備しておくべき
では、仮に自分が死んだあと、秘蔵の映像や画像が入ったパソコンのハードディスクの中身が公開されたら・・・・。あるいは、中学生のときにかいた自作の詩が発見されたら・・・・生前は無名に近かったという宮沢賢治のようになれると、墓の中で期待するしかないのだろうか。
「方法はあります。絶対に他人に見せたくないものがあれば、『遺言』などで処分方法を遺族に指摘しておくとよいでしょう。『遺言』は、おもに遺産分割についての意思を遺族に伝えるためのものですが、それ以外の事柄を書いてもかまいません。
どんな人にでも平等に、かならず死は訪れます。それがいつかは誰にもわかりません。亡くなった後で恥ずかしい思いをしたくなければ、準備をしておくべきでしょう」
このように中村弁護士はアドバイスしている。なお、死後にハードディスクの中身を自動的に消去できるソフトについては知らなかったようで、「そんなソフトがあるのですか?是非入手したいものです(笑)」と関心を示していた。