署名を偽造して、無断で離婚届を出した妻(50代)が逮捕ーー。こんな驚きのニュースが1月24日、報じられました。
朝日新聞デジタル(1月24日)によると、女性は2016年6月、離婚届に夫を装って署名、押印して市役所に提出したとして、有印私文書偽造・同行使、電磁的公正証書原本不実記録・同供用の疑いで逮捕されました。
当時は別居状態だったそうですが、市役所から夫に届いた通知が発覚の経緯だったようです。
●「勝手に離婚届を提出された」
弁護士ドットコムにも「勝手に離婚届を提出された」という相談が複数寄せられています。
ある男性は離婚する意思はなかったものの、喧嘩をおさめるために署名だけして押印はしませんでした。離婚届を預かろうとしたところ、妻が「預かるだけ」と勝手に奪ったためそのまま渡したところ、3日後に勝手に離婚届を提出されたそうです。
「離婚届の提出を巡る相談は比較的よくあります」。離婚問題に詳しい鶴岡大輔弁護士はそう話します。無断で離婚届を提出されてしまった場合、どうしたらいいのか聞きました。
●無断で離婚届、犯罪に当たる可能性も
ーーまず、離婚届を相手に無断で提出するリスクを教えてください
「離婚自体が無効になるリスクがあります。勝手に提出しても離婚にならないかもしれないということです。
協議離婚は、離婚届を提出するときに、離婚の意思があることと離婚届の提出という2つの要件が満たされないと有効になりません。偽造した離婚届を提出したとすると、相手の離婚意思はありません。
そのため、相手が本気になって調停や訴訟をすれば、離婚が無効になる可能性があります」
ーー今回のケースで、女性は逮捕されています
「私文書偽造・同行使罪や電磁的公正証書原本不実記録・同供用罪といった犯罪にあたる可能性もあります。相手が署名、押印のいずれか一方でもしていないのに、署名を勝手に書いたり、押印したりして離婚届を提出してしまうと私文書偽造・同行使罪にあたります。
離婚届を勝手に書いたら犯罪だとはすぐには思い浮かばないかもしれませんが、私文書偽造・同行使罪は3カ月以上5年以下の懲役が法定刑ですので、軽く考えない方がいいと思います」
●勝手に出されないために「離婚届の不受理申し出」
ーー離婚届を勝手に出されないために、できることはありますか
「夫婦間で離婚の話が出てきたらぜひ活用していただきたいのが、離婚届の不受理申し出という制度です(戸籍法27条の2第3項)。相手が離婚届を提出しようと役所の窓口に行っても、受け付けられなくなります。
不受理申し出を一度すれば、取り下げるまで有効です。その意味では一度出してしまえば安心です。ただ、だいぶ前に不受理申し出をしていると、申し出をした人自身も忘れていることがあります。
その場合、取り下げないまま離婚届を提出しようとしても、離婚届が受理されるまで時間がかかってしまうので、不受理申し出をしたことを忘れないようにしてください」
ーー無断で提出された側はどう対処すればいいですか
「まず、役所に対して離婚届の記載事項証明書を請求します。役所によって異なりますが、離婚届提出から1カ月間程度であれば、離婚届は役所内に保管されています。保管期間をすぎていた場合は法務局に問い合わせることになります。
そして、離婚を無効にしたい場合は、協議上の離婚の無効確認の調停を申し立てます。調停内で、当事者間に事実関係に争いがなく、審判を受けることについて合意が成立していれば、裁判所が協議離婚の無効を判断(合意に相当する審判)します。
しかし、相手が離婚届を偽造したことを否定すれば、調停は不成立になり、離婚は無効にはなりません」
ーー調停が不成立になったら、どうなりますか
「協議離婚の無効確認訴訟を提起することになります。離婚届記載事項証明書などの証拠を提出して、離婚意思がなかったと裁判所に認められれば、協議離婚が無効であるとの判決が出ます。
調停にせよ、訴訟にせよ、協議離婚は必ず裁判所を通さないと無効にできません。夫婦(元夫婦)の話し合いのみでは解決できないことに注意してください」