育児に積極的に取り組む父親の呼び名として「イクメン」という言葉をよく耳にする。育児休暇を取る父親も増えてきており、「育児は夫婦で分担するもの」という考え方が広がってきているようだ。
しかし、そんな「イクメン」が増える一方で、「育児は母親がするもの」という昔ながらの男性も、まだ根強く存在する。あるネットの相談サイトには、「育児を全く手伝おうとしない夫と離婚したい」という相談が寄せられている。
「子供は母親の方がいいに決まってる」「育児書には父親は母親のサポートをするべきとあるのだから、母親がメインでやるのが普通」。そんなふうに言って、夫は育児に関わろうとしない。そればかりか、「育児休暇は育児をする為の休暇だから、それが普段の仕事の替わりだ」などと言って、妻が産休に入ってからは、家事も分担しなくなったというのだ。
なんとも身勝手な言い分に聞こえるが、このように夫が育児や家事をまともにやろうとしない場合、妻は離婚することができるだろうか。離婚問題にくわしい伊藤俊文弁護士に聞いた。
●育児放棄は「悪意の遺棄」や「婚姻を継続しがたい重大な事由」になり得る
「法律では、『夫婦は、同居し、互いに協力し扶助しなければならない』(民法752条)と定められています。この『夫婦協力義務』は当然、育児にも適用されます。夫が正当な理由なく、家事や育児に協力しなければ、この義務を放棄していることになります。
そういった状態なら、裁判上の離婚原因として認められている『配偶者から悪意で遺棄されたとき』(民法第770条1項2号)にあてはまります。夫が言い訳ばかりして育児をしない場合も、度が過ぎればこれに該当するとして、離婚が認められることは十分にあり得ます」
――つまり、育児放棄を理由に、離婚が認められることはある。
「そうですね。他にも家事や育児放棄が、他の様々な原因と組み合わさって、『その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき』(民法第770条1項5号)と認められる場合もあるでしょう。その場合も裁判上の離婚原因になります」
――具体的に、そういう事例はある?
「あります。夫の育児・家事への協力不足から、妻が婚姻生活に失望し、別居を望むようになったという状況について、『表面的には夫婦生活を営んでいたものの、夫婦を結びつける精神的絆は既に失われていたものと評価することができる』として、民法第770条1項5号により離婚を認めた裁判例があります(東京地方裁判所平成15年8月27日判決)」
家族観が変化しつつあるいま、意識が食い違うケースは少なくない。特に育児をする際などには、そういった点について、夫婦間できちんと考え方をすりあわせておく必要がありそうだ。