保育所に入りたくても定員オーバーで入ることができない「待機児童」問題。自治体の認可保育所への入所を拒否された親たちが、集団で異議を申し立てる動きが拡大中だ。行政不服審査法にもとづく集団異議申し立ては今年2月以降、東京都杉並区や足立区、大田区、渋谷区などで相次いでいる。保育所の不足については以前から指摘があったが、その解消を求める動きが本格的に噴出してきたかっこうだ。
厚生労働省の発表によると、全国の待機児童は2012年4月時点で約2万5000人に及ぶ。実は認可保育所の定員は2005年に比べ、全国で約19万人増えている。しかし、保育所の利用率も同時に上がったため、待機児童の数は減っていない。むしろ2005年4月時点の約2万3000人から約1割増えてしまっているのだ。
そのような現状が、今回の集団異議申し立てにつながっているといえる。行政に対して声を上げた親たちは、いったい何を要求しているのだろうか。また、待機児童問題が解消しない状態が続いていることについて、自治体に対して「怠慢だ」と責任を問うことはできるのか。待機児童率が全国ワーストである沖縄の弁護士で、集団異議申し立てのサポートをするなど保育や待機児童の問題に取り組んでいる大井琢弁護士に聞いた。
●異議申し立てをすると、保育所に入れてもらえるケースもある
――今回の集団異議申し立てで、親たちは何を求めているのでしょうか?
「今回の異議申し立ての構図は、保育所の入所申し込みを拒絶された親が『うちの子を入れろ』と行政に要求しているという形です。個々人での異議申し立ては、件数は多くないものの以前から行われています。しかし集団での申し立てが各地で相次ぐという流れになったのは、今回が初めてでしょう」
――この異議申し立てには、どういった効果があるのですか?
「実態として、異議申し立てをすると入れてもらえるというケースは珍しくありません。自治体には待機児童をなくす責任がありますから、問題が大きくなる前に沈静化を図りたいという気持ちがあるのではないでしょうか。
ただ、これは『裏技』的なやり方で、保育所の受け入れのパイが大きくなるわけではありません。自治体としては本来、保育所を増やして待機児童そのものをなくさなければならないはずです。今回の集団申し立ては、保育所数を増やすためのムーブメント的な要素も大きいと思います」
――待機児童の解消について、自治体に責任があるという根拠は何なのですか?
「児童福祉法24条1項です。自治体は『保護者から申込みがあったときは、それらの児童を保育所において保育しなければならない』とされています。保育に対する需要の増大など、やむを得ない事情があるときは『その他の適切な保護』をすると書いてありますが、これだけ長期に渡って待機児童が減らない現状は違法だと思います」
――法律の文言として、「待機児童を解消しなければならない」といった表現で、国や自治体に義務が課せられているのですか?
「いえ、そういった明確な文言はありません。ただ、これは個人的な意見になりますが、児童福祉法24条1項の趣旨からすれば、当然そういう『待機児童の解消義務』が生じるといえます。ですから、『国や自治体がこの義務を果たさず保育所整備を怠ったせいで不利益を受けた』という主張をして、国や自治体に対して国家賠償訴訟などを起こすことができると考えています」
国や自治体も認可保育所の数を増やすなど、待機児童の解消に向けて取り組んでいるとは言える。だが、保育ニーズのピークとされる2017年までに、どれだけの成果を上げることができるのか。対策に失敗すれば、行政の責任を追及する声がさらに各地で燃え上がる――現状はそんなギリギリの状態だと言えそうだ。