「最近の子供の名前が読めない。」周りの人からこのような声を聞いたり、テレビのテロップなどで子供の名前が表示された際に読み方がわからなかった、という経験をしたことはないだろうか。
明治安田生命保険相互会社が発表した2011年生まれの新生児の名前ランキングによると、男子は1位が同率で「大翔」と「蓮」、次いで3位が「颯太」、女子は1位が「陽菜」、2位「結愛」、3位「結衣」だった。30年前と比較すると、1981年においては男子が「大輔」、「大介」、「健太」、女子は「恵」、「愛」、「裕子」の順となっており、時代の変遷と共に子供の名前の傾向も大きく変化していることがわかる。
今も30年前も、両親が子供の将来への希望や願いを込めて命名していることに違いはないだろう。ところが最近の子供の名前は独創性も重視されているのか、2011年の男子の名前ランキング14位の「陽向」や、女子11位の「心結」のように、どのように読むのか一目では判別しにくい名前が増えている印象がある。漢字の読解力は人それぞれではあるが、少なくとも現在のパソコンや携帯電話では一回で平仮名から漢字に変換するのが難しい名前であることは確かだろう。
また、読み方がわからないというものとは事例が異なるが、1993年にはある男児の名前が「悪魔」として役所に申請され、社会を騒然とさせたことがあった。(申請結果は不受理)
生まれたばかりの子供は自ら名前を選ぶことはできないので、「悪魔」のような明らかにその後の人生に悪影響を与えることが想起される名前の不受理は当然だとしても、他人がどのように読むのか苦慮してしまうような名前については、申請の際に制限はないのだろうか。
家族問題に詳しい寄井真二郎弁護士に聞いた。
「最近読み方のわかりにくい名前が増えていますが、申請の際の制限については、戸籍法50条1項に、『子の名には、常用平易な文字を用いなければならない』と規定し、同条2項の規定を受けて、名前に用いられる字に一定の制限は付されているものの、親の命名は原則として自由に行使できます。」
「命名は、個人の人格を表したものであり子どもの生涯において他の人格と分別して特定・識別させるという機能を果たす点で、単に子の養育・監護と結びついた親権の域を超えるものです。そのため、『悪魔』という命名について、裁判所は命名権の濫用として例外的に否定しました。悪魔ちゃん事件以外には命名権の濫用を認めた事例はないようですが、『難解、卑猥、使用の著しい不便、特定(識別)の困難等の名は命名することができない』とする古い裁判例があります。」
「とはいえ、出生届を受ける役所が、一つ一つ、届出名が命名権の濫用に該当するかどうかの判断を行うことができるのかについては、審査の画一性を欠き制度的にも困難を伴うばかりか、行政による過度の介入を招くこともつながり、適切ではありません。従って、他人がどのように読むのか苦慮してしまう名前については、その名を呼ばされる他人に対する配慮も必要ですが、実際には、悪魔ちゃん事件のように余程のような場合でなければ、親の命名について役場からストップがかかることはないと思われます。」
ということで、常用平易な文字を用いるという規定や、命名権の範囲について言及した裁判例は存在するものの、読み方がわかりにくいという理由では現実的に命名申請が不受理になる可能性は非常に低いといえそうだ。
とはいえ、子供も満15歳以上になれば、戸籍の名前の変更を自ら家庭裁判所に申請することができるようになる。
子供が成長したときに、自分の名前に誇りや愛着を持てるような命名を心がけたいものだ。