見ず知らずの人々がひとつ屋根の下で暮らす「シェアハウス」という生活形態が近年、若者世代を中心に広がっている。この1月からは「シェアハウスの恋人」というタイトルのテレビドラマも放送されるなど、注目度は高まる一方のシェアハウスだが、見知らぬ者同士の生活にはトラブルも必然的につきまとう。
弁護士ドットコムの「みんなの法律相談」にもそんなトラブルの事例が投稿されている。相談者は、10数名が住むシェアハウスで共同生活を始めて約1ヶ月になるという女性。ハウス内において住人同士の会話はほとんどなく、ほぼ他人のような間柄だ。それなのに、「たまたまキッチンで合った方と軽い会話をしていたら、いきなりキスされそうになりました」というのだ。
部屋に逃げ込んだものの、強い恐怖感はぬぐえなかった。「外にでたり、トイレに行ったり、シャワーを浴びるのにも恐怖を感じています」。相手の男性から謝罪されたが、ショックはまだ消えていない。
このような場合、相手に慰謝料を請求することはできるのだろうか? もし請求できるとしたら、金額はいくらぐらいが考えられるのだろうか? 男女関係のトラブル案件を数多くてがける堀晴美弁護士に話を聞いた。
●同意なしのキス行為は「強制わいせつ」にあたる
「相手の了解なしにキスをしようとするという行為は『強制わいせつ』に該当し、不法行為として慰謝料を請求することができると思います。ショックを受けて、治療等を受けていれば、その費用も請求することができます」
このように堀弁護士は述べる。その金額は、「現実にキスされたわけではないので、せいぜい10万から15万円くらいだと思います」とのことだ。では、金銭面での解決を求めない場合、今後のトラブル防止にどのような方法が考えられるのだろうか。
「事件の起こったシェアハウスに居住を続けるのであれば、相手方の謝罪と、今後一切このような行為をしない、した場合には慰謝料○○円を支払うという内容の公正証書を作成しておくのが一番安全だと思います」
相手に慰謝料を請求しても応じなければ、訴訟を起こす必要がある。しかし現実に期待できる慰謝料はそれほど大きな金額ではないので、今回のようなケースは「コストパフォーマンスの点から考えても、示談で公正証書を作成するのがベストでしょう」ということだ。
「今回は相手方が謝罪しているということですから、慰謝料の額で調整して合意に至るのがよいと思います。重要なのは、今後一切そのような行為をしない、した場合にはペナルティを課すという点です」
●シェアハウスを選ぶときは「同居人」を確認して契約すべき
そもそも、シェアハウスという居住形態を選択する時点で、入居者にも相応の危機管理意識が求められると堀弁護士は説く。
「シェアハウスは、見知らぬ人同士が同居するので、特に、男女が同居する場合はセクシャルハラスメントが起きる可能性はぬぐいきれません。そのような危険性があることを知って、同居人をよく確認してから契約すべきだと思います」
住人同士の交流はどの程度なされているか。トラブルがあった際の取り決めはあるか――今後シェアハウスへの入居を検討する場合は、こうした確認事項を事前によくチェックした上で、住まいを決めるのが良いといえるだろう。