「夫に望まない妊娠をさせられました」。そんな悩みが、ネットの相談サイトに投稿されていた。妻は子どもがほしくなかったが、夫は子どもがほしい。そんな夫婦のあいだで、ちょっとした「ミス」により、妻が妊娠してしまったのだという。
妻が中絶することを伝えたところ、夫からは「それなら、離婚する!」という答えが返ってきた――。このような場合、「子どもを作らないのなら離婚したい」という夫の望みにしたがって、妻は離婚に応じなければいけないのだろうか。離婚問題にくわしい堀井亜生弁護士に聞いた。
●民法に定められた「離婚原因」とは?
「裁判上認められる『離婚原因』の一つとして、『婚姻を継続し難い重大な事由』(民法770条1項5号)というものがあります」
堀井弁護士は、このように民法の条文を紹介する。
「これは、夫婦の婚姻生活が破綻した場合、つまり、やり直しがきかない状況のことを指します」
では、子どもをほしがる夫とそうではない妻が対立している場合、「婚姻を継続し難い重大な事由」にあたるのだろうか。
「現在の日本では、社会通念上、婚姻生活の当事者が『子供を持たない』という特段の合意をしていない限り、『子どもを持つこと』が暗黙の了解であり、婚姻関係を継続する重要な前提と考えられます。
したがって、夫が子どもをほしがっているのに、妻が同意していないというのは、婚姻生活を破綻させかねない状態といえます」
このように堀井弁護士は説明する。
「ただし、結婚する際に子どもを産まないことについて夫婦の間で合意出来ていれば離婚原因にならない可能性があります。また、妻の子供を持たないという希望が、時期的な問題や病気などの合理的理由であれば、それだけで離婚は認められない可能性が高いです。
ですので、出産に関して夫婦の意見が対立していることが離婚原因にあたるか否かは、それまでの夫婦の話し合いの内容や理由などを考慮して総合的に判断されることになるでしょう。少なくとも意見が一度対立しただけでなく、お互い十分に話し合っても解決する見込みが無いという事情が必要だと思われます。」
夫婦関係を円満に保つ秘訣は、お互いに相手の考えを理解することだ。もし「子どもはほしくない」と思っているのならば、結婚前に隠さずにそのことを打ち明けた上で、パートナーもその気持ちを理解できるよう努めるべきなのだろう。