10歳の女の子が母親を訴えた、という異例の裁判がニュースになっている。育児放棄(ネグレクト)で精神的苦痛を受けたとして、180万円の慰謝料を求めているのだという。
報道によると、女児は2年前、両親の離婚によって母親と2人暮らしをすることになったが、毎朝の食事は食パン1枚で、夕食は冷凍食品ばかり。母子間の会話もほとんどなく、週末に一緒に外出することもなかったと主張し、「ネグレクトによって受けた精神的ダメージは計り知れない」と訴えているのだ。
このニュースを見て、「10歳の子どもが裁判を起こすことができるの?」と驚いた人がいるかもしれない。だが、さすがにそれは難しい。未成年者が裁判を起こしたいときは、「法定代理人」が代わりを務めることになる。では、その際のルールは、どのように決まっているのだろうか。家族に関する法律にくわしい小松雅彦弁護士に聞いた。
●未成年者は自分で裁判を起こすことができない
「未成年者が原則として、自分自身で民事の裁判を起こすことはできません。したがって、訴訟は、『法定代理人』が未成年者にかわって行うことになります。
法定代理人とは、『法律の規定に基づいて代理権を授与された者』のことで、本人の意思とは関係なく、代理権が与えられるのが特徴です。
法定代理人制度の主な目的は、本人(未成年者など)の保護などにあります」
たしかに未成年者だと、自分で適切な代理人を見つけるのも難しいだろう。今回のケースでは、「父親」が法定代理人になったようだが、未成年者の場合、誰が法定代理人になるのだろうか。
「未成年者の法定代理人は、原則として『親権者』がなります。
親権とは、親が子どもを養育・監護する権利義務のことで、子の財産管理や財産上の行為についての代表権も含みます。
父母の婚姻中は、父母が共同して親権を行うのが原則です。もし父母が離婚した場合は、父母どちらか一方の単独親権となります」
そうすると、今回は、父親が親権者だったということだろうか?
「ニュースでは離婚後、子どもを母親が引き取ったと報じられていますから、おそらく今回のケースでは、当初は母親が親権者とされていたのでしょう。しかしその後、申立を受けた家庭裁判所が、子どもの利益のために必要だとして、親権を父親に移したのではないでしょうか」
小松弁護士はこのように話していた。
なお、この裁判で母親側は、母親自身も当時精神的に病んでおり、食事を作れる状態ではなかったことや、医療費が必要で慰謝料として支払うお金がないことなどを主張しているという。