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離婚後の養育費「20歳まで」の壁を越えるには…留学や院進学、ニートになったら?
山口政貴弁護士

離婚後の養育費「20歳まで」の壁を越えるには…留学や院進学、ニートになったら?

中学生、高校生、大学生の子どもがいる夫婦が離婚した場合、大きくのしかかってくるのが子どもの進学費用。学費、塾代などお金のかかる時期だからこそ、養育費に対してしっかりとした取り決めをしておかないと、子どもの進学に大きな影響が出ることもあります。大学生の場合は、20歳を過ぎたら養育費はどうなるのかも気になるところ。

離婚問題に詳しい山口政貴弁護士に聞きました。(ライター・山口美紀)

●養育費は原則20歳まで

ーー養育費の支払いについて、法律ではどのように定められているのでしょうか

法的には、子どもが20歳に達した月で終了になります。ただし、これはあくまで原則論で、ある程度の収入があり、自分の生活費は自分で賄える状況になれば、そこでストップです。高校を卒業して就職した場合には18歳の3月まで、中学校を卒業して就職した子どもは15歳の3月で終わり、ということもあります。

逆に、未成年の子どもが働いているものの、収入が少なく、養育費が必要な状況もあるでしょう。例えば、アルバイトで月数万円ぐらいの収入で親権者と一緒に生活しているようなケースでは、養育費の支払いの対象になるでしょう。

ーー20歳を超えても、大学生や大学院生などは養育費が必要ではないでしょうか

先ほど説明した通り、法律上は「20歳まで」ですから、それ以降の年齢については明確な定めはありません。しかし、離婚する時点で「大学に行く場合は、22歳まで(もしくは卒業まで)養育費を払います」という取り決めをする場合が多いです。しかし、これも義務ではありません。

ーー大学進学が確定しない時点でも、取り決めはできるのでしょうか

できます。ただ、子どもが中学生ぐらいのときに離婚する場合、その段階で子どもが大学に行くかどうかは、まだ分からないですよね。そこで、「子どもが20歳までは養育費を払う、ただし、大学、専門学校などに行くことになったら別途検討する」などの取り決めをしておくことが一般的です。ただ、4月から大学に進学すると決まっている高校3年生の子どもなら「22歳まで」と明確に決めておきます。

ーー大学院進学、留学に行くこともありそうです

その場合には、その時点での話し合いになると思います。一般的には、大学までは認められても、留学や大学院への進学費用は、養育費の範囲に含まれません。ただし、話し合いによっては半分ぐらい払ってもらえる可能性があるかもしれませんね。

ーー進学以外の理由ではどうでしょうか。成人しても、子どもがニートだったり、非正規雇用だったりすることもありそうです

結論から言うとできません。20歳で養育義務は終了です。成人したら、自分で仕事しなさい、というのが基本で、大学に行く場合は例外、という考え方です。20歳に達した段階で親権から外れますから、そこから先は子の自己責任となります。

ーー正規雇用されず、仕方なくフリーターをしている人がいるかもしれません

それでも養育費の請求はできません。かわいそうな気もしますが、法律の建前として、20歳になったら大人、ということになりますので。もちろん、非親権者が任意で養育費を払う分には全くかまいませんが。

●養育費をきちんと払ってもらうための手段

ーー非親権者が将来、養育費を払わなくなるのでは、と不安がある場合、しっかり払ってもらえるようにする手段はあるのですか

たとえ養育費の支払いの取り決めをしたとしても、口約束だと約束通りの額が支払われない、いつの間にか支払いがストップしてしまうケースもあります。

拘束力を持たせるため、家庭裁判所に申し立てをして調停の手続きをすることができます。公正証書を組むという方法もありますが、その場合、非親権者も公証役場に連れていかなければなりません。「行くのが嫌だ」と言われたら、拘束力がないのでそれまでです。

ーー家庭裁判所に調停の申し立てをし、支払いが始まるまで、どのくらいの期間がかかりますか

調停の申し立てとは、裁判所に書類を提出することですが、その時点からの支払いになります。金額が決定した時点からではありません。なお、養育費の金額は、裁判所のHPに掲載されている「養育費算定表」という早見表でほぼ決まりますので、決定するまでそんなに時間はかかりません。2、3回の調停をおこない、申し立てから3~4カ月で決まるのが普通です。

ーー養育費に関しての取り決めを何もしないで勢いで離婚した場合には、さかのぼって請求することはできますか

今の裁判実務だとほぼ認められてないです。そのため、養育費が支払われていない時には、できるだけ早く家庭裁判所に申し立てをすべきです。

●離婚する前にやるべきこととは

ーー「子どもが大きくなったら離婚しよう」と考えている人が、離婚前にやっておくことはあるのでしょうか

離婚では、離婚するか否かで争うことはほとんどなく、一番もめるのはとにかくお金のことですね。離婚の際に発生するお金の問題とは、慰謝料、財産分与、養育費の3種類です。

お子さんが、お金のかかる時期に離婚しようと考えているのであれば、お金のことはなおさら重要になります。離婚を考え始めたら、まずは一度、住居や仕事、教育費など、お金のシミュレーションをし、その上で、お子さんの生活設計を考えるといいと思います。

離婚となると、生活費、進学費用のほかに、住居の問題もあります。引っ越し代、家賃などの、今まで相手や夫婦共同で支払っていたものを全て自分で払わなければならない。さらに、お子さんが20歳を過ぎれば養育費はもらえなくなります。

実際、このようなことを考えた結果、離婚をあきらめて別居を続けている夫婦もいます。

ーー離婚後の暮らしを見据えて、離婚の話し合いを進めることが必要ということですね

そうですね。勢いで離婚してしまう前に、しっかりと離婚後のシミュレーションをして欲しいと思っています。養育費について言えば、養育費に関しての公正証書が組めれば一番早いのですが、前述したように、公正証書は相手も公証役場に行かないといけません。なかなか公正証書を組むまでに至らないことも多いので、そうなると家庭裁判所での調停、ということになります。

離婚というのは、時間とお金と手間がかかる、本当に面倒くさいものです。「養育費算定表」から出される養育費の額も、十分な金額にはなっていない、というのが実情です。養育費だけでは頼りない、ということを自覚しておいたほうがいいですね。

【取材協力弁護士】

山口 政貴(やまぐち・のりたか)弁護士

サラリーマンを経た後、2003年司法試験合格。都内事務所の勤務弁護士を経験し、2013年に神楽坂中央法律事務所を設立。離婚、婚約破棄等を専門に扱っており、男女トラブルのスペシャリストとしても知られる。

事務所名:神楽坂中央法律事務所

事務所URL:http://www.kclaw.jp/index.html

【ライタープロフィール】

山口美紀(やまぐち・みき)

地方紙新聞記者から地方局アナウンサーとなり、テレビの報道番組、ラジオの情報番組などを担当する。ライター転向後、アナウンサー経験を生かしたインタビュー記事や、大手出版社女性誌、地域情報紙の取材記事などを多く手掛ける。趣味は、コスパのいいランチを探すこと。

(弁護士ドットコムニュース)

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