「人生一度。不倫をしましょう」――。そんな衝撃的なキャッチコピーを掲げる既婚者向けの出会い系サイト「アシュレイ・マディソン」が話題になっている。2002年からカナダでサービスが始まったアシュレイ・マディソンは、原則として「既婚者」を対象としていて、堂々と不倫目的のサービスであるとうたっているのが特徴だ。
日本には昨年6月に上陸した。運営会社のアビッド・ライフ・メディアの発表によると、昨年11月22日(いい夫婦の日)を前に、世界30カ国の会員数が2200万人にのぼり、日本国内で63万人を突破したという。日本の63万人突破は世界最速だそうで、「日本人の強い不倫願望を示している」と同社はコメントしている。
だが、日本において、不倫は道徳的に良くないことだとされているだけでなく、法律的にも離婚原因や慰謝料請求の対象となる行為だ。このように不倫を公然と推奨するサービスは、法的に問題がないのだろうか。たとえば、夫がアシュレイ・マディソンを通じて不倫したことが発覚したとき、妻は運営会社に対して慰謝料を請求できるだろうか。男女間の法律関係にくわしい堀井亜生弁護士に聞いた。
●不倫推奨サイトの運営は「不法行為」にあたるか?
「まず、本サイトの特徴は、『人生一度。不倫をしましょう』というキャッチコピーで、不倫を推奨している点です。また、サイトの利用者に対して、不倫願望のある相手と肉体関係を前提にした接触を容易にさせていると言える点も、注目すべきでしょう。
この点、運営会社は、『単に出会い系サイトを運営しているだけで、最終的に不倫をするかどうかは、利用者の意思による』と主張するかもしれません。
しかし、このサイトの特徴を考慮すると、単なる出会い系サイトや、客が既婚かどうか確認をせず単に性的行為の機会を提供する風俗店とは、性質が異なっていると考えます」
サイト運営が、法的に問題となる可能性もあるのだろうか?
「まずは、このように不倫の機会を提供するサイトを運営することが、民法709条の不法行為にあたるかどうかを考えましょう。
カギとなるのは、サイト運営と、利用者の不倫行為との間に、『因果関係』が認められるかどうかです。
この点、『不倫を誘引したうえで、具体的機会を提供する』という特徴が、このサイトにあるとすれば、因果関係が認められる可能性も高いといえるのではないでしょうか」
●不倫行為の「責任」はサイト側にもあるのか?
「次に、夫の不倫行為について、妻が運営会社の責任を追及することが可能かどうかを考えます。
ポイントは、夫の不倫行為が、夫と運営会社の共同不法行為(民法719条1項)と認められるかどうかです。そのためには、運営会社が夫と『共同の不法行為』をしたことが必要です。
この『共同の不法行為』が、どこまで密接なものでなくてはならないか、裁判例でも意見が分かれていますが、多くの裁判例は、行為者間にそれほど緊密な関係を要求していません。したがって、サイトの運営者とその利用者という関係であっても、『共同の不法行為』と認められる可能性はあるといえます。
また、同条2項では、教唆やほう助、つまり、そそのかしたり、手助けをした者にも共同不法行為の成立を認めていますので、結局のところ本件で共同不法行為が認められる可能性があるといえるでしょう。
したがって、もし夫がこのサイトを使って不倫をした場合、妻が運営会社に対して慰謝料を請求できる可能性は、十分にあると考えます」
もし慰謝料が認められたとしたら、夫と運営会社と、どちらが多く負担することになるのだろうか?
「共同不法行為による損害賠償の負担割合は、ケースバイケースです。
ただ、今回のような事例では、サイト運営会社は不倫の機会を提供したにとどまり、不倫を決意し実行したのが夫である以上、最終的な金銭面の負担の多くは、夫が負うことになるでしょう」
堀井弁護士はこのような見解を述べていた。