「単身赴任は別居とみなされるから、俺たちは破たんしている」。単身赴任中の夫から、離婚を突きつけられた女性が弁護士ドットコムに相談を寄せています。
相談者によると、夫は単身赴任を始めてから、離婚話を2度、もちかけてきました。
1度目は、昨年。「交際している女性がいる」という理由でしたが、相談者が相手女性に離婚する意思はないことを伝え、2人は別れることになりました。
2度目は、今年。昨年とは別の女性と交際・同棲していることが理由だといいます。相談者が相手女性と話したところ「ご主人から破たんしていると聞いているので、お付き合いをしている」と言われてしまったようです。
相談者はパート勤務で月収は8万円。大学生の子どもがいます。「癌の疑いもあり、仕事もいつまでできるかわかりません。夫からは、電話もメールも無視されています」と不安を抱えています。
相談者は、離婚に応じなければいけないのでしょうか。理崎智英弁護士 に聞きました。
●「単身赴任」は「夫婦関係が悪化したこと」を理由にした別居ではない
ーー相談者の夫は「単身赴任は別居とみなされる。俺たちは破綻している」と話しているようです。そもそも、「単身赴任」は「別居」にあたるといえるのでしょうか
「単身赴任は、将来戻ってくることを前提とした一時的な別居に過ぎません。また、夫婦関係が悪化したことを理由にした別居でもありません。
そのため、婚姻関係が破たんしているかどうかを判断する際に考慮される『別居』にはあたらないでしょう」
ーー「婚姻関係の破たん」とはどのような意味なのでしょうか
「『婚姻関係の破たん』とは、 夫婦が婚姻継続の意思をなくしてしまい、夫婦関係が修復不可能な程度に悪化していることを意味します。
婚姻関係が破たんしているといえるかどうかは、婚姻期間、別居期間などさまざまな要素を総合的に考慮して判断されます。
たとえば、暴力があったり、夫婦ともにお互いにやり直そうという意欲を失ったりしているときなどは、単身赴任を開始した時点で、婚姻関係が破たんしていると認められる場合もあるでしょう。
とはいえ、婚姻関係の破たんは容易に認められるものではありません」
●相談者に「癌の疑い」 それでも離婚は認められる?
ーー夫は別の女性と交際し、同棲しているようです。夫は『有責配偶者』(自ら婚姻破たんの原因を作った配偶者)にあたると考えられますが、その場合でも、夫からの離婚請求は認められるのでしょうか
「基本的には有責配偶者からの離婚請求は認められません。
ただし、
(1)夫婦間の別居が相当長期に及んでいること、 (2)夫婦間に未成熟の子がいないこと、 (3)相手方の配偶者が離婚により精神的、社会的、経済的に極めて苛酷な状況におかれるなど、離婚請求を容認することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情が認められないこと、
という3つの要件を満たす場合には、例外的に、有責配偶者からの離婚請求も認められます」
ーー今回のケースでは、夫は単身赴任中、子どもは大学生です。ただ、相談者は癌の疑いがあるようです。このような重篤な病の可能性がある場合、有責配偶者からの離婚請求は認められるのでしょうか
「そのような場合には、上記(3)の要件を満たさない可能性が高いといえます(離婚により精神的、経済的に極めて苛酷な状況におかれる)。そのため、夫からの離婚請求は認められないと考えます」