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「山下さんは包茎ですか?」 子どもの様々な質問に向き合う…山下敏雅弁護士が一番伝えたいこと
山下敏雅弁護士(2019年7月/弁護士ドットコム撮影/東京都)

「山下さんは包茎ですか?」 子どもの様々な質問に向き合う…山下敏雅弁護士が一番伝えたいこと

「まわりにからかわれるおかしな名前を変えたい」

「学校で制服を着ないといけないのが嫌だ」

「たばことお酒はなんでダメなの?」

家族や学校、犯罪、性など、子どもたちの悩みや疑問に、法律の視点から答える弁護士がいる。山下敏雅弁護士だ。

2013年4月、ブログ『どうなってるんだろう?子どもの法律』(http://ymlaw.txt-nifty.com/blog/)を開設して、子どもたちが直面する問題について、法律や判例をあげながら、丁寧に回答しつづけてきた。

子どもたちから寄せられる質問の中には、「山下さんは包茎ですか?」というものまである。ほとんどの大人が、一瞬ドキリとするような内容の質問についても、山下弁護士は臆せず向き合っている。

これまで少年事件やLGBTの権利などに取り組んできた山下弁護士は「子どもこそ、法律の知識を持っておくことがとても大事だ」と語る。なぜ、そう言えるのだろうか。山下弁護士にインタビューした。(ライター・玖保樹鈴

●ネットを通して、子どもたちに法律の知識を伝えたい

――ブログをはじめたきっかけは?

インターネット上は、フェイクニュースや差別的な発言が拡散することがあります。大人たちは、子どもに「ネットは危ない」とは言うけれど、一方で、正しい情報や必要な知識をきちんとネットで伝えているのだろうか、とずっと疑問だったんです。

それで、ブログを通して、多くの子どもたちに正しい法律の知識を伝えようと思って、はじめました。資料を読み返したり、脚注に載せるために判例を調べたりし、法律の難しい話を子どもにわかりやすく、表現を悩みながら書いているので、執筆に丸2日かかることもあります。

――実際に子どもたちから寄せられた質問に答えているのですか?

設定を変えたり、個人情報をわからなくしたりしていますが、基本的には、子どもたちからきた質問を取り上げています。ただ、『健康保険証の裏にある「臓器提供」って何?』(2017年1月)のように、質問があったわけではないけれど、どうしても伝えたいものについては、自分でテーマを考えることがあります。

――本当に「山下さんは包茎ですか?」という質問もあったのですか?

児童館や児童養護施設などに定期的に行っているのですが、1~2年に1回は子どもたちから質問されています(苦笑)。「この人には聞いても大丈夫」と信頼してくれている証なんでしょうけれど。

たとえば、コンドームを見せびらかしたりする子がいる場合、妊娠・出産や性感染症、性犯罪などの話をするようにしています。たいてい、子どもたちも「初めてそういう話を聞いた」と関心をもってくれます。

●憲法に感動して、弁護士を志した

――ブログは2017年に書籍化され、2019年6月には、2冊目の『どうなってるんだろう? 子どもの法律 PARTⅡ』(高文研)が出版されました。ブログと書籍は書き分けているのですか?

書籍のほうは、書き下ろしと大東文化大学の渡辺雅之教授による解説が加わっていますが、基本的には、ブログに掲載された内容となっています。『PARTⅠ』を出す際はいくつかの出版社に相談したのですが、「この内容では売れない」と言われたこともありました。ところが、いざ出版したら、全国各地の図書館や学校が購入してくださいました。

あとは、学校の先生が授業で使ってくれたり、保健室登校の子どものために保健室に置いてくれたという話も聞いています。『PARTⅡ』は前作と基本的なスタンスは変わっていませんが、表紙を見ていただけると、より多様性が出ていることがおわかりいただけると思います。包茎の記事は『PARTⅡ』の掲載には間に合いませんでいしたが、もちろんブログで読めます。

画像タイトル 『どうなってるんだろう? 子どもの法律 PARTⅡ』(高文研)

――書籍にすることの意義はなんだと思いますか?

このブログはスマホでも読めますが、書籍だと、目次から興味のあるページを探したり、パラパラ開いて全体を読むことができるので、ブログよりも深く伝わるのではないか思います。たとえば、家で暴力を振るっていた子どもが、親と一緒に前作を読んだことで、暴力がおさまったという話も聞いています。

――弁護士を志したきっかけは?

きっかけは、小学生のころ、毎週のように通っていた地元の公立図書館で、憲法を読んで感動したことです。

当時もいじめや管理教育が問題になっていた時期だったので、教育問題の本を手に取っては「自分よりもっと大変な思いをしている子どもたちがいるんだ」と思っていました。たまたま『ふざけるな!校則』(はやしたけし/駒草出版)という本を手にとったら「憲法の条文を勉強しよう」みたいなことが書いてあって、憲法も読んでみたんです。

判例や学説など難しいことは知らなくても、人は誰もが、生きる権利や教育を受ける権利があること、表現の自由があること、差別されないことなどの憲法の条文に、とても感動しました。同時に、子どもたちの味方をしている弁護士がいることも知ったので、自分も大人になったら法律家になって、子どもの味方をしようと、このころに志しました。

●性の問題に向き合うことは、人権尊重につながる

――「包茎ですか?」などの質問にも臆せず答える理由はなにですか?

性の問題は、子どもたちも当事者であり、教えることが人権尊重に繋がると考えているからです。セクシュアル・マイノリティやHIV陽性者支援をしてきた経験から、最近は学校の出張授業に呼ばれることが多くなり、よくLGBTについて話しています。その際には「セクシュアリティだけではなく国籍やハンディキャップの有無など、人間は1人ひとり違うものだ」という多様性の話もしています。

ここでも、妊娠・出産や性暴力、感染症などの話につなげることにしています。性は、セックスという狭い意味ではなく、自分の心と体を大切にし、相手の心と体を大切にすること。いやらしいとか恥ずかしいということではなく、まさに人権尊重とつながる大事なこと。大人たちは、そういうメッセージを子どもにきちんと伝える責任がある。私はそう思っています。

――子どもこそ法律の知識をもっていることが大切なのですか?

多くの子どもたちは、学校の校則や家・施設のルールは、大人たちが勝手に決めて自分たちを縛るもの、破ったらペナルティを受けるものだと考えています。しかし、本来は、規則やルールは自分たちを守るための武器であって、縛るものではありません。

規則やルールには必ず理由があって、理由からみて規則やルールがおかしければ変えていくべきだし、子どもであってもおかしなことには「おかしい」と言っていい。その時の武器になるものの一つが法律です。だからこそ、子どもこそ法律を知っておく必要があると思っています。

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