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八戸市民みんなで作る公共施設「はっち」が人気…青森県内の中心市街地で唯一、地価上昇
市民とともに作り上げる公共施設「八戸ポータルミュージアム はっち」。中心市街地の再活性化を牽引している(「はっち」提供)。

八戸市民みんなで作る公共施設「はっち」が人気…青森県内の中心市街地で唯一、地価上昇

青森県八戸市の中心市街地。三日町にある交差点には、このエリアで初めてという新築マンションの工事が進む。このエリアは今年9月、青森県内の中心市街地として唯一、地価が上昇した。地方が中心市街地の再活性化で悩む中、異例の活況を見せている。

八戸市が毎年調査している中心市街地の歩行者通行量は、昭和50年代から平成2年まで、平日と日曜日をあわせた2日間は、20万人台を推移していた。しかし、長引く不景気や大型店舗の郊外移転、ネットショッピングの台頭などが原因となり、以後は減少の一途をたどっていく。特に買い物客などで賑わうはずの日曜日の落ち込みはひどく、平成の20年間で3分の1まで減少。何度か再開発ビル計画もあったが、不況のあおりで頓挫していた。

中心市街地の衰退は、八戸市全体の衰退につながる。その再活性化は、市民の願いでもあった。そこで始動したのが、中心市街地の「顔」となる新しいコンセプトの公共施設の建設計画だ。2011年2月11日、観光客や市民に八戸の魅力を伝え、市民がまちづくりを担う場として「八戸ポータルミュージアム はっち」がオープンした。

「はっち」以後、八戸市の中心市街地はどのように変わり、なぜ活気が戻ったのだろうか。街を訪ねてみた。 (弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)

●「はっち」以後、目抜き通りの歩行者通行量の減少に歯止め、激増

八戸市の中心市街地は、JR本八戸駅から徒歩10分ほどのエリアに広がる。「はっち」は三日町の目抜き通りに位置し、ガラス張りで透明感のある建物はひときわ存在感を示している。新築マンションが建築中の三日町交差点からもよく見える場所だ。

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1階はカフェやショップが入り、さらに上のフロアには、地域の歴史や文化を紹介する観光展示、キッチンや音響施設などを備えたスタジオ、シアター、ギャラリー、アーティストや学生が宿泊滞在して活動できるレジデンスが入る。4階には、NPOが運営する子育て支援施設「こどもはっち」があり、県産材の遊具やおもちゃで遊んだり、育児相談をしたりできる。どのフロアも、椅子やベンチが置かれ、休憩したり集まったり、屋根のある公園のように使うこともできる。実に、多様な機能を持った複合施設だ。

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「この10年で、街は変わりました」。そう振り返るのは、「はっち」の主任コーディネーター、柳沢拓哉さん。計画当初から関わってきた。柳沢さんによると、「はっち」の開館1年で、中心市街地の通行量の減少に歯止めがかかり、2年後には前年(開館前の2011年)比33%増。「はっち」前で見ると、89%増となった。

「はっち」の来館者数も、当初の想定を大きく上回る年間90万人以上を持続している。開館3年後には、来館者が300万人を達成、市街地で空き大型ビル再開発が3事業、動き始めたという。

「はっち」の開館前、八戸市はどの地方自治体にも共通する悩みを抱えていた。県内で青森市、弘前市に並ぶ主要都市で、全国屈指の水産都市、北東北随一の工業都市でもあるが、少子高齢化の波が押し寄せていたのだ。1995年の約25万人をピークに、現在の人口は約23万人。国立社会保障・人口問題研究所によると、八戸市の人口は2060年、12万人程度まで減ると推計されている。

このままでは、地盤沈下は免れない。そこで、「はっち」で中心市街地を再活性化することにより、八戸市全体を盛り上げることが、「はっち」に課せられた使命だった。開館前後、「はっち」も「ハコモノ」批判を受けた。しかし、市民と協働で行う事業で、「何度も訪れたくなる複合施設」を目指した。

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●「はっち」の半径500メートルにIT企業、1000人が働くエリアに

その事業は大きく3つの柱がある、と柳沢さんは説明する。

「一つ目は、会所場づくり。今、サードプレイスの必要性が指摘されていますが、『はっち』も、モノ消費からコト消費へ、購買型から滞在型への来街者ニーズ対応を目指しています。目的がなくても、『はっち』で過ごしてもらう。そして、街のさまざまな情報にアクセスして市街地を回遊してもらいます」

たとえば、「はっち」を拠点にする「まちぐみ」。八戸市在住の現代美術家とボランティアの市民400人が協働し、店頭にユニークな看板や仕掛けを設置して店舗に足を運んでもらうなど、街の魅力を再発見する活動を続けている。八戸市は、港町らしい風情あふれる横丁の文化で知られている。この夏に「はっち」に立ち寄った時、まちぐみでは、その横丁の中でも特に「入りづらい店」に焦点を絞ったマップを作成しているところだった。

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「観光客の方に横丁が面白いと言っていただけるのであれば、市として注力しないと意味がありません。そうやって、プログラムをつくりながら、自由に市民の方たちに活動していただいています」

また、シアターやギャラリーでの創作活動を支えているほか、市民による起業の支援も行なっている。2階から4階にかけてのフロアには、起業を目指す人が低価格で最長3年間まで借りられる「ものづくりスタジオ」の店舗が並ぶ。地元の素材を生かしたビジネスや、地域のクリエーターを応援する場となっている。

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「一般的に美術館や博物館は、作品や資料の展示が中心かもしれませんが、『はっち』は市民とともに、地域の資源を活用して作り上げていく場になっています。他人ごとではなく、自分ごとにしてもらう。そうすることで、何度も『はっち』や街中に来てもらい、回遊やコミュニケーションが生まれるのです」

「はっち」の効果は中心市街地に人を呼び戻しただけではない。新しい企業も流入している。「今、『はっち』の半径500メートルにはヤフー八戸センターを始め、IT企業で働く人たちは1000人います。オープン以前は、せいぜい30人ぐらい。それもコールセンターのような業態だけでした」と柳沢さん。しかし、現在は東京から新幹線で3時間かからず、太平洋側で気候も比較的穏やかで、活気ある八戸市の街でオフィスを開く企業が増加。そこでキャリアアップをする若い世代が増えてきたという。

●「八戸ブックセンター」と「マチニワ」もオープン、エリアの地価上昇

今、「はっち」のあるエリアはさらに進化しようとしている。2016年12月に、自治体が運営する全国でも珍しい公設の書店「八戸ブックセンター」がオープンした。店内には、ギャラリーや登録すれば「市民作家」として執筆活動ができるカンヅメブースが備えられている。コーヒーを片手にハンモックに揺られて読書もできる。この書店では、市内の書店員が集まって勉強会を行うなど、八戸市が「本の街」を目指す拠点となっている。

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また、「八戸ブックセンター」と「はっち」の間をつなぐように今年7月にオープンしたのが、 八戸まちなか広場「マチニワ」だ。ガラス張りで天井までの吹き抜けのある空間は開放感を覚える。訪れた日は、ガラスの扉が開け放たれ、ちょうど開かれていた八戸三社大祭の大きな山車が展示されていた。あちこちに座るスペースもあり、中央にある水が流れるオブジェ「水の樹」のまわりでは、浴衣を着た親子が遊ぶ姿がみられた。

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自治体による積極的な公共施設の展開が、市街地の再活性化だけでなく、エリア全体の地価上昇や企業誘致にもつながっている。

「『はっち』の開館当初はハコモノ批判もありました。準備している時は、公共床と商業床の複合ビルが成功例とされ、商業床を大きく取り入れ家賃収入を取るべきとの声も強かった。しかし、『はっち』の発想は、ただテナントの賃貸をするハコモノではなく、市民と一丸となって作り上げて行く新しい公共施設で、市民の関心を中心街に集めて、エリアの魅力を協働で向上させることでした」と柳沢さん。

「ここで、市民が色々な活動をしたり、表現したり、発信したり。面白ければ、リピーターとしてくるし、外の人も来たくなる。回遊の仕掛けも行う。そうして人が集まれば、周囲でお買いものしてもらえる。『はっち』はこれまでにない、地域活性化の公共施設です」

「はっち」、「八戸ブックセンター」、その間をつなぐ広場である「マチニワ」。性格の異なる3つの施設が中心市街地の心臓部となって、八戸市の活性化を担っている。

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(弁護士ドットコムニュース)

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