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のぞみ殺傷、被害者は泣き寝入り? 容疑者の父や祖母に賠償請求できるのか
画像はイメージです(T2 / PIXTA)

のぞみ殺傷、被害者は泣き寝入り? 容疑者の父や祖母に賠償請求できるのか

東海道新幹線「のぞみ」の車両内で6月9日夜、乗客3人がナタで切られて、男性1人が死亡、女性2人がケガをおった事件。殺人未遂容疑で現行犯逮捕された男性(22)は、父親と折り合いが悪かったようだ。読売新聞によると、男性の父親は「今は家族ではない」「関係は断絶していた」と話している。ネット上では、親の責任を問う声もあがっている。

また、男性の母親が報道機関に発表したコメントなどによると、男性は中学生のころ、不登校になった。その後、自立支援施設に入所して、地元の定時制高校を卒業。就職もしたが、人付き合いがうまく行かず、1年でやめたという。

その後、男性は自殺をほのめかすようになっていたが、祖母に懐いていたことから、祖母の家に引き取られた。昨年、その祖母と養子縁組をしていたという。今回の事件のくわしい状況や動機については、神奈川県警で取り調べられているところだ。

ところで、逮捕された男性は刑事責任だけでなく、民事責任も問われる可能性がある。もし、被害者や遺族から損害賠償を請求された場合、「関係断絶」の父親や、「養子縁組」の祖母まで、民事責任を負わないといけないのだろうか。田沢剛弁護士に聞いた。

●損害賠償の金額は「莫大なものになる」可能性

まず、今回の事件で、容疑者の男性はどのような民事責任を負うのだろうか?

「被害者に対して、不法行為に基づく損害賠償責任を負います(民法709条)。被害者の中には、殺傷された3人だけでなく、列車が遅延したことで損害をこうむることになった鉄道会社(JR東海)も含まれます。

もちろん、損害をこうむった人や法人が、これらに限定されるわけではありません。どこまで広がるかは未知数ですが、いずれにしても、事件と相当因果関係にある損害を賠償しなければなりません。その金額は莫大なものになると思われます」

●未成年者や責任無能力者については「監督義務者」が責任を負うケースも

その民事責任を家族も負わないといけないのか?

「たとえば、未成年者の不法行為責任については、次のように定められています。

『未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない』(民法712条)。

精神障害による責任無能力者についても、同じような定めがあります(民法713条)。

一方で、責任無能力者であるがゆえに、責任を負わない場合であっても、監督する法定の義務を負う者(または監督義務者に代わって監督する者)は、その監督義務を怠らなかったとか、あるいは損害の発生自体が避けられなかったような場合を除いて、責任を負うと定められています(民法714条)。

一般的には、小学校卒業程度(12歳前後)の年齢で責任能力を獲得するといわれていますが、責任能力のある未成年者の不法行為によって生じた損害であっても、監督責任者が監督を怠っていたこととの因果関係が認められれば、監督責任者は、民法709条によって、直接に損害賠償責任を負います」

●父親や祖母に法的責任は生じない

関係断絶していた父親と、養子縁組していた祖母はどうなる?

「責任能力のある成人については、親権者などの法定の監督責任者はいませんので、基本的に、家族もその責任を負うということはありません。

父親だろうと、養子縁組をしていた祖母だろうと、法律上の親子関係はあっても、親権者(監督責任者)ではありません。よって、道義的責任は別としても、法的な責任は生じないということになります」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

田沢 剛
田沢 剛(たざわ たけし)弁護士 新横浜アーバン・クリエイト法律事務所
1967年、大阪府四条畷市生まれ。94年に裁判官任官(名古屋地方裁判所)。以降、広島地方・家庭裁判所福山支部、横浜地方裁判所勤務を経て、02年に弁護士登録。相模原で開業後、新横浜へ事務所を移転。得意案件は倒産処理、交通事故(被害者側)などの一般民事。趣味は、テニス、バレーボール。

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