「先輩、おれサークル辞めますね」「それなら今までおごった分のお金を返せ!」。都内の大学生1年生タクミさんは、サークルを辞める際、これまで先輩におごってもらった食事代を返すよう要求されて頭を抱えている。
タクミさんのサークルには、後輩と食事に行く際には必ず先輩が食事代を出すという伝統があった。先輩からおごってもらったように、今後は自分が後輩におごることで、先輩からの恩を返していくのだ。それにもかかわらず、1年生の途中で、タクミさんが後輩におごることもなく辞めようとしたため、「金返せ」と言っているようだ。
タクミさんは、くだらない脅し文句だと考えて、「一度もらった食事代を返す必要はない」と反発している。先輩の要求は法的に通用するのか。伊藤真樹子弁護士に聞いた。
●贈与されたものを返さなければいけない場合もある
食事代をおごることは法律上どのような行為だと考えられるのか。
「当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることを贈与と言います(民法549条)。食事代をおごることは、ある人が支払うべき飲食代金相当額の金銭を与えることになりますので、法律上、贈与と言えるでしょう」
贈与されたものを返す義務はあるのか。
「贈与については、既に履行の終わった部分は撤回することができないとされています(民法550条ただし書き)。食事代をおごるというのは、おごった時点で既に贈与の履行を終えたことになりますので、撤回することは出来ないのが原則です。
つまり、贈与の効力がなかったものとして食事代を返すよう要求することは出来ません。ただし、贈与にあたって、贈与される側が何らかの負担を負うことが前提とされていたような場合、その負担が履行されない場合に、贈与の解除が認められることがあります」
●おごってもらった食事代を返す必要はない
サークルをやめずに、今度は自分の後輩におごって恩返しすることは、贈与の負担といえるようなものなのか。
「今回のようにサークルのメンバーとして今後も交流をしていくことを、先輩が期待していたとしても、そのような期待はサークル活動では特別なものではありません。
おごるという贈与行為がそのような期待のもとになされたとしても、サークルに残って後輩におごることは、贈与の負担と評価できるほどのものではないでしょう。
ですから、負担付贈与にはあたらず、解除は出来ないことになり、先輩からの返還請求に応じる必要はありません」