福島県下郷町の小中学校で2018年1月、消費期限を約5か月過ぎたサンマのすり身を給食で食べた児童や生徒、教員ら計87人が発疹などの食中毒の症状を訴えたことが報道された。アレルギー反応を起こす「ヒスタミン」が検出され、県は販売した水産加工会社を2日間の営業停止処分としたという。
この事例は消費期限を5か月も過ぎていたため販売会社の過失が重大とみられ、一般にありふれた事例とは言えないかもしれない。だが、少しくらい消費期限を過ぎていても、大丈夫そうなら口にしてしまうという人はいるのではないか。実際、消費期限が迫る食品はスーパーなどで割安で売られ、ついつい目がとまってしまう。
消費者庁HPでは、期限を過ぎた後に食べて食中毒が起こった場合の民事上の責任についてQ&Aを設けている。これによると、営業者(販売会社など)の過失や商品における欠陥などの要素が考慮され、「期限後の食品であることをもって、直ちに営業者が免責されることにはならないと考えられます」とある。
期限を過ぎたからといって、直ちに食べることが危なくなるわけではない「賞味期限」と異なり、「消費期限」には消費者側も大いに注意を払う必要があるとも言えそうだ。たとえば消費期限前の食品を買い、期限を5日過ぎた後に食べて食中毒になったら、自己責任でしかないのか。民事上、治療費などを請求する余地はないのだろうか。佐藤光子弁護士に聞いた。
●民法や製造物責任法による損賠請求
ーー消費期限とはどういったものでしょうか
「消費期限は、食品衛生法の表示基準で定められており、定められた方法により保存した場合において、腐敗、変質その他品質の状態が劣化に伴い安全性を欠くこととなるおそれのないと認められる期限として表示されたものです。ですので、消費者も期限を過ぎたものは食べないように注意したほうがよいのです。
しかし、消費者が、食中毒などで、事業者や販売者に損害賠償請求をする場合は、食品衛生法ではなく、民法や、製造物責任法の損害賠償請求が検討されます」
ーーどのような論点がありますか
「製造者に製造物責任法上の責任を問う場合は、製造した食品に欠陥があったか、すなわち、その食品が通常有すべき安全性を欠いているかが問題となります。欠陥があったか否かは表示も合わせて検討されますし、損害の発生につき消費者側に過失がある場合は過失相殺が検討されます。
販売者に民法の不法行為上の責任を問う場合は、損害を発生させるにあたり、販売者に故意や過失があったかや、食中毒などの結果発生との因果関係が検討されます。売買契約上の責任では契約違反といえる食品を販売したといえるかが検討されます。いずれも、消費者側に過失がある場合は過失相殺が検討されます」
●消費期限切れでも直ちに自己責任とならず
ーーそれでは消費期限を過ぎたものを食べたら「自己責任」とも言い切れないわけですね
「難しいところですが、例えば、食品購入後に消費期限を5日過ぎてしまったものを食べて食中毒になったからといって、そのことだけで直ちに何も請求出来ないのではなく、個別の法律の要件に該当するかが検討され、その際に消費期限を過ぎていることが考慮されるということになります。
福島の事件では、販売会社は、消費期限を5か月も過ぎている食品を販売していることを認識して販売しているようなので故意過失があると思われ、被害者は消費期限切れであることは知りえなかったので、治療費などにつき、販売会社に対して不法行為による損害賠償請求をしていくことが考えられるでしょう」