安倍晋三首相の地元、山口4区。公示日となった10月10日、安倍首相の代理として、夫人の安倍昭恵さんが「第一声」を上げて選挙活動をスタートさせた。しかし、公示日直前にある男性がTwitterで呼びかけた一言が波紋を呼んでいる。
男性は10月7日、「とにかく初日一人でも多く山口4区に来て、安倍あきえを取り囲みましょう!10日が盛り上がれば本当に安倍総理に選挙で勝てる!」などと投稿。その後、男性は安倍首相と同じ山口4区から無所属で立候補していることから、安倍首相を落選させる目的で、遊説中の昭恵さんを取り囲むように呼びかけたとみられる。
産経新聞の報道によると、安倍首相の陣営は、昭恵さんに危険が及びかねないとして、警察に相談したという。男性は産経新聞の取材に対して、「実際に取り囲むかどうかは別として、それくらいの気持ちの人が一杯いるということだ」と答えている。
インターネットを利用した「落選運動」は認められている。立候補者やその家族の選挙活動に対して、動員を呼びかける行為も落選運動に当たるのだろうか。この行為に法的な問題はないのだろうか。清水陽平弁護士に聞いた。
●落選運動には当たらず、場合によっては脅迫罪になる可能性も…?
公示日前に、Twitterで特定の立候補予定者に対する落選運動を展開することは、対立候補予定者であっても問題ない?
「公職選挙法142条の5は、『当選を得させないための活動』として落選運動をすることを認めており、そのためには、電子メールアドレス等が表示されていればよいとされ、主体に制限があるわけでもありません。したがって、対立候補予定者であっても、落選運動をすることは可能です。
なお、そもそも、どのようなものが『当選を得させないための活動』に当たるかですが、選挙運動とは、一般に、『特定の候補者の当選を目的として投票を得又は得させるために必要かつ有利な行為』とされており、ある候補者の落選を目的とする行為であっても、それが他の候補者の当選を図ることを目的とするのであれば、選挙運動となると解釈されています。
そのため、『当選を得させないための活動』とは、単に特定の候補者の落選のみを図る活動を念頭に置いているとされます。
本件では、安倍首相を当選させないためという側面があるものの、自身が立候補していることからして、自身の当選を目的にしていると言い得るため、厳密に言えば、『当選を得させないための活動』、つまり落選運動には当たらないように思われます」
では、他に法的な問題はあるのだろうか。
「ただ、いずれにしてもどんなことを言ってもよいというものではなく、発言内容によっては公職選挙法とは別に問題になる場合があるでしょう。
立候補者やその家族を取り囲もうと呼びかける行為は、論戦をしているものではなく、一定の有形力の行使を伴うことを想起させます。取り囲むだけで直接触れるのでなくても、自由が制限され、言われた側からすれば一定の恐怖を感じることが予想できます。その意味で、(警察が取り合ってくれるかどうはさておき)脅迫罪に該当する余地があります。
そして、実際に取り囲んだ場合は、監禁罪に当たる余地があります。監禁というと、閉鎖された場所に閉じこめないと成立しないように思うかもしれませんが、一定の場所から脱出できなくなればよいとされます。また、脱出が不可能である必要まではなく、著しく困難であればよいとされます」