大阪地裁は8月30日、長野県の男性になりすまして、インターネットの掲示板などに他のユーザーを罵倒するような投稿を繰り返していた大阪府の男性に対して、なりすまされた男性に130万円を支払うよう命じた。8月30日、朝日新聞が報じた。
被告は、男性がGREEで使用していたプロフィール画像や登録名を使用してなりすまし、掲示板などで他の利用者を罵倒するような投稿を繰り返した。男性は今回の訴訟に先立って、被告の情報開示を通信会社に求める裁判も起こしていた。
なりすましの被害にあっても、投稿者の特定など被害者に大きな負担がかかる現状がある。今後どのような対策が求められるのだろうか。この裁判の意義と今後の課題について、この裁判の原告代理人でもある中澤佑一弁護士に聞いた。
●「弁護士費用の全額について損害賠償が認められた」
「ネット上で行われた表現行為によって、他人の権利を侵害したのであれば、その表現に伴う責任を負わなければなりません。これは匿名での表現や、今回の事例のような『なりすまし』であっても同様です。今回の判決も、そのような当然の理屈を示したものであり、これまでの事例との比較でも特段珍しいようなものではありません。
しかし、ネット上で行われる権利侵害の多くは加害者が不明であり、責任を追及するためには、その前提として情報開示の手続きが必要となります。この情報開示の手続は、専門的な裁判を短期間に複数行わなければならず、弁護士に依頼することなく成功させることが困難な状況になっています。
そのため、情報開示のための弁護士費用を被害者はまず負担しなければならず、被害回復の大きな障害となっているのが現状です。
今回の判決では、慰謝料とは別に、この情報開示のために負担した弁護士費用の全額について損害賠償が認められました。これは近時の裁判例の傾向に沿う、被害回復の一つの解決策であると考えています」
●今後の課題とは?
他に、今後どのような課題があると考えられるのか。
「通信会社が管理している通信ログの保存期間について統一的なルールがなく、実際にも非常に短期間でログが消去されているという問題もあります。通信ログが消去されてしまっている古い投稿については、加害者を調査することもできません。また、通信ログが消去される前に情報開示の手続きを行わなければならないため必然的に手続きの難易度も高まっています。
事後的に被害回復を図ることができないのであれば、事前規制型の問題対処にならざるを得ません。通信ログの保存期間のルールなど、事後的な被害回復が確実になされるような仕組みづくりが、今後もネットが自由な媒体であり続けるためには重要です」