任天堂の人気ゲーム「マリオカート」の略称「マリカー」を他の会社が商標登録したことについて、任天堂が特許庁に異議申し立てをしていたが、特許庁は異議を認めず、この会社の商標登録を維持する決定をした。
商標登録をしたのは、公道カートのレンタルサービスを手がける「株式会社マリカー」(東京都品川区)。同社は「マリカー」の文字商標を特許庁に出願し、2016年6月に登録された。
その後、9月に任天堂が異議を申し立てたが、今年1月、特許庁は「マリカーという略称は広く認知されているとは認められない」として、商標登録を維持する決定をした。任天堂は、法的措置を検討中だと報じられている。
「マリカー」をめぐっては、任天堂は今回の異議申し立てとは別に、今年2月、不正競争防止法違反や、著作権法違反で同社を訴えたことを発表し、大きな話題になっている。
商標をめぐる特許庁の決定について、どのように考えればいいのか。岩永利彦弁護士に聞いた。
●「特許庁の決定は妥当」
「今回の特許庁の異議申立て(異議2016-900309)の決定書(登録維持)を見ましたが、妥当なものだと思います」
岩永弁護士はこのように述べる。
「まず、異議申立てというのは、特許庁に対する再審査の請求のようなものです。商標の登録を取り消せる理由は限定されています。
今回任天堂が異議申立てをした理由は、『他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標』(商標法第4条第1項第15号)と、『他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であつて、不正の目的をもつて使用をするもの』(同項第19号)の2つです」
これらの理由について、決定書ではどのように判断されたのか。
「決定書の判断を考える上でのポイントの1つが、第15号の『混同』です。混同では、他人の標章(つまり任天堂の方の「マリカー」など)の周知性が重要となります。よく知られていればこそ、誤認が生まれるからです。
決定書では、周知性について、『マリオカート』は相当程度に知られているものの、その略称である『マリカー』については、『「マリカー」の文字が単独で使用され、申立人商品を表すものとして広く知られていることを認めるに足りる証拠もない』とされています。
つまり、勝負の土俵は、『マリオカート』ではなく『マリカー』であって、しかも任天堂は、『マリカー』の周知性を立証できなかったということです。『マリカー』商標の比較の対象は『マリオカート』ではなく、その略称の『マリカー』だとした。この点が、特許庁のロジックの最大のポイントでしょう。
そして、『マリオカート』自体と『マリカー』は非類似(似ていない)と判断され、結局、4条1項15号に該当しないという結論になったわけです。19号の方も、ほぼ同じロジックで該当しないという結論になっています」
任天堂は法的措置を検討しているようだが、今後の流れはどうなるのか。
「まず、維持決定については不服の申し立てはできません(商標法43条の3第5項)。したがって、任天堂は、訴訟で争うのではなく、新たに無効審判を起こす必要があります。
その無効審判で今回の結論を覆せるとしたら、『マリカー』の周知性の証拠をうまく集めることができるか、または、勝負の土俵を『マリオカート』の方に持っていくことができるかにかかっているでしょう」