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2017年02月08日 09時48分

原発避難いじめ、学校はどう対応すべきだったか…「いじめ防止対策推進法」から考える

原発避難いじめ、学校はどう対応すべきだったか…「いじめ防止対策推進法」から考える
横浜市いじめ問題専門委員会(第三者委員会)の報告書

福島第一原発の事故後、福島県から横浜市に自主避難していた中学1年の男子生徒が、小学生のころ、同級生に約150万円を支払わされていたことについて、横浜市教育委員会が「いじめと認定することが難しい」という考えを示し、大きな批判が巻き起こった。

いじめ問題に取り組む弁護士は、今回の問題についてどう考えているのか。「いじめ防止対策推進法を実践に生かす 」という立場から、小池拓也弁護士が解説する。ポイントとなるのは次の5点だ。

・「いじめ防止対策推進法」は「いじめ」をどう定義しているのか?

・金銭授受は「いじめ」なのか?

・第三者委員会の報告書は、どのような内容だったのか?

・教育長の発言は何が問題だったのか?

・保護者への対応、どうあるべきか?

●「いじめ防止対策推進法」は「いじめ」をどう定義しているのか?

いじめ防止対策推進法は、いじめについて次のように定義しています。

「児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」(2条)。

つまり、ある行為がいじめに当たるかどうかの判断は、対象となった子どもが感じた心身の苦痛を重視して行うことになります。

これまでのいじめによる自殺等の痛ましい事態においては、「遊びの中で起きたこと」「被害者にも問題があった」「喧嘩に過ぎない」「ささいなことである」などとして学校にいじめとの認識が乏しく、子どもの苦痛に目を向けた適切な対応がなされていないことが多くみられました。

その反省に立ち、上記のいじめの定義は、被害者目線を重視し、本来支援されるべき子どもを対象からこぼしてはならないという趣旨で定められたものです。

このように、いじめを広く定義した以上、犯罪と評価すべきものから親切心から出た行為まで、多様なものが含まれることになります。

そのため、推進法は、いじめについて情報の共有と組織的対応は求めるものの、一部の例外を除き具体的対応を明記していません。次のような表現にとどめています。

「いじめを受けた児童等又はその保護者に対する支援及びいじめを行った児童等に対する指導又はその保護者に対する助言を継続的に行うものとする」(23条3項)

つまり、推進法は、いじめを広く定義し、生徒の苦痛を見落とさないよう求めてはいるものの、いじめが多様である以上、仮にいじめと認定されても具体的対応については特に定めずに、学校の判断に委ねているといえます。

また、いじめが多様である以上、推進法はいじめの発生自体については否定的な評価を行わず、いじめへの取り組みが不十分な場合に初めて否定的な評価を行うようにしているといえます(34条)。文部科学省も「いじめの認知件数が多い学校について、教職員の目が行き届いていることのあかしであると考えています」としています。

●金銭授受は「いじめ」なのか?

それでは、今回の場合、金銭授受はいじめでしょうか。

先程述べたように、推進法では、いじめは「他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為」(2条)とされています。横浜市いじめ問題専門委員会(第三者委員会)は、金銭授受を以下のようにとらえた可能性があります。

つまり、他の児童が行った金銭支払の原因となった行為は、他の児童による心理的・物理的影響を与える行為といえるのでいじめにあたると判断できる一方で、金銭支払行為は当該児童自身の行為であるので、他の児童による心理的・物理的影響を与える行為とはいえない、というものです。

このように考えれば、「金銭の授受をいじめと認定することは難しい」というような見解もありうるでしょう。

しかしながら、金銭授受の際には当該児童の支払行為だけではなく、他の児童の金銭受領という行為があるといえ、このようなとらえ方をする必要はないと思います。

そもそも、原因行為中に「賠償金あるだろ」という発言のような、金銭支払に向けられたものがあるとすれば、原因行為と金銭受領を分断して、「原因行為はいじめだが、金銭受領はいじめではない」というのは不合理です。

仮に、金銭支払に向けられた行為が存在しなかったとしても、当該児童が原因行為の結果として金銭を支払っているのであれば、他の児童の金銭受領の際に当該児童は苦痛を感じているでしょうから、いじめとみるべきです。

すなわち、既にみたとおり、推進法2条は、子どもの苦痛に目を向けた適切な対応を行うべきという趣旨でいじめを広く定義しており、加害者側の主観を問題にしていません。

したがって、たとえ金銭受領のとき他の児童に攻撃意図がなく、単におごられただけと考えていたとしても、その際に当該児童が苦痛を感じている以上はいじめとみるべきです。

とはいえ、金銭授受がいじめと認定されたとしても、これはいわば出発点に過ぎません。大切なのは、いじめと認定されたとして、学校がどのような具体的対応をとったかです。

●第三者委員会の報告書は、どのような内容だったのか?

横浜市の第三者委員会調査報告書は、金銭授受への学校の対応について次のように述べています。

「当該児童が複数回にわたり加害を疑われている児童を中心にゲームセンター等に一緒に出かけ、金銭を負担していたことも、採られた方法論は明らかに間違っているが、『いじめ』から逃れようとする当該児童の精一杯の防衛機制(適応機制)であったということも推察できる。

これらの問題に対しての学校側の対応としては、表面的な問題行動のみに注視して、児童の内面的な葛藤に対しての対応ができておらず、教育上の配慮に欠けていたといわざるを得ない。

金銭的な授受の問題についても、当該児童と関係児童の言っている金額の相違などを問題とする前に、小学生が少なくても万単位の金額を”おごる・おごられる”ということをすること自体、生徒(児童)指導の対象と考え、教育的な支援を行うことが必要であった。しかしながら、『正確な金額がわからないので、その解明は警察にまかせたい』とか『返金問題に学校は関与しない』として、学校は上記の教育的支援を十分に行ったとは思えない。

学校は、加害を疑われている児童たちに対しても、適切な教育活動を行ったとは言えず、当該児童及び関係児童全てに対し、行うべき教育的指導・支援を怠ったと言わざるを得ない。

以上のことから、この時期については、おごりおごられ行為そのものについては『いじめ』と認定することはできないが、当該児童の行動(おごり)の要因に『いじめ』が存在したことは認められる」

このように、第三者委員会報告書は、金銭授受はいじめではないから指導しなくてよいとしているものではなく、いじめとの関連を指摘した上で学校が関係児童への指導支援を怠ったことを批判しています。

●教育長の発言は何が問題だったのか?

これに対して、1月20日の岡田優子教育長は、質問との関係もあるかもしれませんが、第三者委員会報告書が学校の対応を批判していることにふれぬまま、「おごりおごられ行為そのものについては『いじめ』と認定することはできない」という部分を言及されたようです。責任逃れのような理解をされたのはやむを得ないと思います。

また、たしかに第三者委員会の報告は尊重すべきですが、第三者委員会の認定には問題もある以上、いじめ防止対策推進の立場であれば教育委員会がこれと異なる認定を行うことは許されるというべきです。

先に述べたとおり、いじめの発生が否定的評価に直結しない以上、 本来 いじめと認定されたことだけで「鬼の首」が取られるわけではありません。金銭授受もいじめと認定した上で、具体的対応をかえりみるべきだったのではないでしょうか。

くり返しになりますが、大切なのは学校・教育委員会の具体的対応です。第三者委員会報告書に現れた問題点には、他の事例と共通するものがありますので、いじめ防止対策に関わる全国の関係者が教訓をくみ取ってほしいと思います。

第一に 今回の件では、当該児童と他の児童との間で、金銭授受の額につき言い分に大きな隔たりがあり、そのため学校は「正確な金額がわからないので、その解明は警察にまかせたい」などとして、教育的指導・支援を怠ったとされています。

このように、当該児童と他と児童との間で言い分が異なる場合、学校の指導・支援が消極的になってしまう事例がみられます。

中には、安易に加害児童側の言い分を採用して、いじめを認定しない事例もあり、これでは推進法は簡単に骨抜きになってしまいます。加害児童側が否定したからといって、事実を認定してはいけないというルールはありません。また、仮に事実認定が難しくても、可能な支援指導は存在するはずです。

第二に 今回の件で学校は、当該児童の金銭支払行為を当該児童の問題行動としてとらえ、当該児童の内面に目を向けていなかったことが指摘されています。

このように、「被害児童にも悪い点がある」などと被害児童側の行為を問題視して対応がおろそかになり深刻な結果を招いた事例は、推進法施行後も存在しています。

元来私たちは、自分の個性として、良い点だけでなく(あるいは良い点と裏腹に)様々な悪い点をもっています。

推進法1条の「尊厳」は、そうした悪い点をもっていても、いじめは当該児童の個人の尊厳を侵すものとして許さないという趣旨と解釈できます。

もちろん、欠点につき指導がなされることはあるでしょう。しかし、だからといって、いじめが許容放置されてよいかというと、そこはきちんと区別されるべきだと思います。

●保護者への対応、どうあるべきか?

保護者との関係は、現場の先生方の一番の悩み事と言ってもよさそうです。保護者と良好な関係を築けない場合、ついつい被害児童の支援がおろそかになりがちではないでしょうか。

児童虐待にもみられるとおり、保護者が子を常に適切に養育するとは限りません。保護者の対応を理由に被害児童の支援をおろそかにしてはならないと思います。もちろん、被害児童の支援といわゆるモンスターペアレントの不当な要求を受け入れることとは別です。保護者と良好な関係を築くには、様々な外部機関や専門家との協力が必要と思います。

2015年に推進法ができた際、2011年の大津いじめ自殺事件のご遺族は、「息子が今、生きている子供たちのために命がけでつくった法律。『日本の学校はあの時から変わった』と実感できるまで法律の運用を見守りたい」と述べておられます。この思いに応えて推進法を運用することが、教育や法律に関わる者の責務と考えます。

(弁護士ドットコムニュース)

取材協力弁護士

小池 拓也弁護士
民事家事刑事一般を扱うが、他の弁護士との比較では労働事件、交通事故が多い。神奈川県 弁護士会子どもの権利委員会学校問題部会に所属し、いじめ等で学校との交渉も行う。

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