病院の対応に腹を立てたことをブログに書いたところ強い批判を受け、ネットで「炎上」状態となっていた岩手県議会議員の小泉光男氏が遺体で見つかり、大きな騒動となっている。
報道によると、同県の実家付近のダム湖畔で6月25日、小泉氏はあおむけに倒れている状態で見つかった。すでに死亡しており、警察が司法解剖したところ、体内から多量のアルコールが検出された。着衣に乱れはなく目立った外傷もないことから、自殺と事故の両面で捜査が進められている。
小泉氏は6月5日、病院で会計時に番号で呼ばれたことに怒り、「ここは刑務所か!」「会計をすっぽかして帰った」などとブログに記載。ネットで「非常識だ」といった非難の声が多数挙がり、テレビの情報番組でも取り上げられた。17日には謝罪会見を行っていた。
今回、小泉氏が自殺したのかどうかはまだ不明だが、ネットでは、小泉氏をツイッターなどで非難していた人の責任を問う声が出ている。複数の「死ねばいい」といった過激な書き込みが、小泉氏を追い詰めたのでは、というのだ。
仮に、ネットで炎上状態となった人物がそれを苦に自殺した場合、ネットに「死ね」などと書き込んでいた人が罪を問われることはあるのか、ネット上での誹謗中傷問題に取り組む清水陽平弁護士に聞いた。
●今回のようなケースで「殺人罪」が成立する可能性は低い
「仮にどんな罪になるか検討するとすれば、殺人罪(刑法199条)でしょうが、今回のようなケースで殺人罪が成立するとみるのは難しいと思います」
――なぜそうなるのか?
「殺人罪が成立するためには『殺す』という行為が必要です。『殺す行為』は、故意に他人の死を引き起こすことを指し、その手段・方法は問われません。
つまり理論的には、精神的衝撃によって他人を死に至らしめた場合にも、殺人罪に問うことは可能です。実際に殺人罪が成立した事例もあります。たとえば、加害者を恐れて完全に服従していた被害者に命令し、岸壁の上から車ごと海中に転落させて、死亡させたケースです」
――今回、「死ね」という発言が、小泉氏を精神的に追い詰めていた可能性もあるのでは?
「精神的なショックはあったでしょうね。しかし、殺人罪が成立するためには、『殺す行為』の結果、現実的に人が死ぬ危険性がなければなりません。今回あったような書き込みが、そういった『殺す行為』にあたるとは評価できないでしょう」
――なぜそう言えるのか?
「本件では『死ねばいい』といった書き込みも複数あったということですが、このような書込みは『死ね』と具体的に命令しているわけではありません。それぞれの書込みをした個人の方が、『冷静な判断ができないような状態に小泉氏を追い込んでいた』とまで言えるわけでもなさそうです。さきほど紹介したようなケースとは違う。したがって、殺人罪は成立しないということになります」
――では今回あったような書き込みには、問題はない?
「いいえ、到底そうとは言えません。原因は、まだハッキリわかりませんが、炎上が個人を死に追いやった可能性もある。このことは重く受け止める必要があると思います。
小泉氏がブログに書き込んだ内容そのものについては、非難されてしまっても仕方がない面があるといえます。しかし、非難と中傷は異なる――この点を混同されている方が多く見受けられます。もし何かをネットで書き込む際には、投稿する直前に一呼吸置いてみるべきでしょう」