大分県警の捜査員が、参議院選挙(6月22日公示、7月10日投開票)の公示前に、野党候補を支援する団体が選挙活動で使っていた建物の敷地に隠しカメラを設置し、人の出入りなどを録画していたことがわかり、強い反発を呼んでいる。
報道によると、カメラが設置されていたのは、社民党の支援団体が管理する別府地区労働福祉会館の敷地。参院選の比例代表に出馬した社民党の吉田忠智氏や、大分選挙区で立候補した民進党の足立信也氏の支援拠点になっていた。
大分県警別府署の捜査員が公示前の6月18日夜、無許可でカメラを設置した。公示翌日の6月23日、施設の職員が敷地内を草刈りしたあと、カメラをみつけて確認したところ、施設への人の出入りなどが録画されていたという。
大分県警は「不適切な行為だった」「捜査のためにカメラを設置した」「草が生い茂っていたため、警察官が公道に準ずる場所と思い込んだ」と説明している。だが、県内の野党関係者から「選挙への不当な介入だ」といった批判があがっているようだ。
今回のような捜査は法的に問題ないのだろうか。猪野亨弁護士に聞いた。
●「野党候補者の選挙活動を監視していたのではないか」
「今回、捜査員がおこなったことは、他人が管理する敷地に無断で入ったわけですから、『住居侵入罪』が成立する可能性があります。
大分県警は『草が覆い茂っていたため公道に準ずる場所』と釈明していますが、<準ずる場所>という概念は説明として苦しく、住居侵入罪の成立を否定する事情にはなりえません。
また、報道によると、県警は<特定の犯罪の捜査のため>と説明していますが、このように住居侵入罪を犯してまでおこなわなければならない捜査自体が、何だったのかが問われることになります。
実際には、野党候補者の選挙活動を監視していたのではないか、ということです。
投開票前から、参議院選挙の大分選挙区では、野党候補者が優勢といわれていました。結果は、接戦で野党が勝利していますが、警察が介入の機会を探索していた可能性がうかがわれます。
仮に、このような目的のために、監視カメラを設置したのであれば、違法であることは論を待ちません。
警察法は、警察の責務の遂行について、『不偏不党かつ公平中正を旨とし、いやしくも日本国憲法の保障する個人の権利および自由の干渉にわたる等その権限を濫用することがあってはならない』(同法2条2項)と規定しています。
犯罪の端緒が何もないのに、野党側の運動を監視していたとしたら、明らかに違法です」
●「警察はこれまでも『違法捜査』をおこなってきた」
「かつての京都府学連事件では、デモに参加した学生の写真を警察が撮影したことについて、適法性が争われました。
この事件で、最高裁は初めて肖像権を認めたうえで、警察の捜査にも一定の限界があることを前提に『現に犯罪が行われもしくは行われたのち間がないと認められる場合であって、しかも証拠保全の必要性および緊急性があり、かつその撮影が一般的に許容される限度を超えない相当な方法を持って行われるとき』としています。(昭和44年12月24日)
この基準については、さまざまな見解がありますが、犯罪がおこなわれていない野党の選挙陣営を撮影していたことは、この基準に照らしても、適法化する余地はありません。
現在のところ、大分県警は捜査目的を明らかにしていません。しかし、警察はこれまでも『不偏不党かつ公正中立』でなければならないにも関わらず、体制に反対する活動に対してはあからさまな違法捜査をおこなってきました。
一番大きなところでは、1986年に発覚した日本共産党幹部宅盗聴事件です。この事件の実行者は、神奈川県警の署員でしたが、起訴猶予処分に対する付審判請求において、最高裁も<組織的関与>であることを認定しています」
●「政治活動の自由を侵害する違法なもの」
「警視庁は1998年、早稲田大学をおとずれた中国の江沢民国家主席(当時)の講演に参加した学生の名簿の提出を大学当局に提出させました。この名簿を提出した大学当局の行為は、最高裁も違法としています。一番の問題点は、警視庁が名簿提出を要求したことにありました。
警察ばかりでなく、自衛隊情報保全隊によるデモ参加者の撮影や、公安調査庁による日本共産党本部前の盗撮などがあります。
今回、大分県警別府署の捜査員がおこなった行為は、選挙の公正を害するものであり、政治活動の自由を侵害する違法なものです。『政治警察』による民主主義社会そのものを否定する行為といえます。
また報道によると、大分県警は、カメラ設置は別府署の判断だとしていますが、署の判断でそこまでやるのか、むしろ大分県警の判断だけでおこなえるのか・・・こうした真相こそ究明されなければなりません。
もし仮に、施設の管理者からの刑事告訴があったとしても、検察庁は起訴猶予処分にする可能性は高く、検察庁の対応にも注目しなければなりません」