3次元のデータをもとに、樹脂などの素材を使って立体物を作り出せる「3Dプリンタ」が話題を集めている。10万円を切る価格のものも出てきて、一家に一台となる日も遠くないだろう。さまざまな立体製品が、個人の家庭で手軽に作り出せる時代になったのだ。
ところが、新技術には必ずリスクが伴うものだ。アメリカでは独自に銃の開発を進める集団『Defense Distributed』が、3Dプリンタで発砲可能な銃を製造し、その設計データをインターネットで公開した。報道によれば、世界100カ国以上からアクセスがあり、80万件もダウンロードされた。日本からも数万件のダウンロードがあったという。
このように家庭用の3Dプリンタで製造できてしまう銃を、日本で作ったら、犯罪なのだろうか。銃の3Dデータをダウンロードしただけでも、「銃の製造未遂」ということで取り締まりの対象となるのか。川口直也弁護士に聞いた。
●3Dプリンタで作られた銃も、発射能力があれば「銃砲」にあたる
「3Dプリンタを使って銃が製造できてしまうことや、この銃のパーツのデータがインターネットに公開されていることは、取材を受けるまで知りませんでした」
このように川口弁護士は率直に話すが、3Dプリンタで作られた銃は、法律的にどのような扱いになるのだろうか。
「銃砲刀剣類所持等取締法(銃刀法)は、金属性の弾丸の発射能力のある『銃砲』の所持を禁止しています。問題となっている銃から『実弾』を発射した動画がネットで公開されていたということですので、この銃が『銃砲』にあたるのは確かなようです」
つまり、3Dプリンタで作られた銃だとしても、実弾を発射できる能力があれば、それを『所持』すると銃刀法違反になるということだ。では、『製造』した場合は、どうだろう。
「実際に、ダウンロードしたデータを使って銃を製造すれば、武器等製造法に違反し、3年以上の有期懲役に処せられます。また、同法は、未遂罪も処罰の対象としていますので、いったん製造に着手すれば、銃が完成しなくても処罰を受けることになります」
●銃の3Dデータをネットでダウンロードしたら「犯罪成立」なのか?
そうなると、銃の3Dデータをダウンロードすれば、銃製造の未遂罪ということなのだろうか。
「いいえ、そうではありません。ネットから3Dデータをダウンロードしただけでは、『銃の製造未遂』にはなりません」
このように川口弁護士は否定して、その理由を次のように説明する。
「未遂罪が成立するには、犯罪の実行に着手している必要がありますが、『実行の着手』とは通常、犯罪の結果が実現してしまうような『現実的危険性』を含む行為を開始した時期だと、解釈されています。
『銃の製造』という結果を実現するには、ネットから3Dデータをダウンロードしただけでは十分ではありません。実際に、3Dプリンタを動かし始めた時点で、その危険性が現実化したということになるでしょう」
話題になった銃の3Dデータについては、日本からも数万件のダウンロードがあったということだが、それだけでいきなり「銃製造未遂罪」になってしまうというわけではないようだ。だが、そのデータを形にしようと、3Dプリンタを動かせば別だ。くれぐれも、そんな「実験」はしないように・・・・