この夏の参院選から、ネットを利用した選挙運動が全面的に解禁されることがきまった。政党、候補者に加え一般有権者も短文投稿サイト「ツイッター」や交流サイト「フェイスブック」などを使った選挙運動が可能になる。
だが、ネットでの選挙運動が解禁されたからといって、ネットでなら何を言っても良いということにはならない。公選法の内容そのものも非常にややこしく、細かなポイントでは各選挙管理委員会によって解釈が違うこともあると聞く。
軽い気持ちで書き込んだ投稿のおかげで、後々大変な事態に陥るのを避けるため、一般の有権者が気をつけるべきポイント、事前に知っておくべき点はなんだろうか。元衆院議員で、選挙に造詣の深い早川忠孝弁護士に話を聞いた。
●「軽い気持ち」や「いたずら」は通用しない
早川弁護士は「ネット選挙解禁は日本の選挙を大きく変える可能性がありますが、今回は、これまで禁止されていたネット上での『文書図画の頒布制限』が一部解除されただけです。それ以外の部分、公職選挙法の枠組み自体は変わっていません」と指摘する。
具体的には、何ができるようになったのだろう。
「特定の候補者への投票を呼びかける等、『選挙運動』のために、SNSやウェブサイト、メールなどで『文書』や『絵』などを送ることができるようになりました。ただし、電子メールについては、候補者や政党に限られ、『一般有権者が電子メールで選挙運動をすること』は改正後も禁止されています」
では、ネットへ書き込むとき、気をつけることは?
早川弁護士は「匿名だから大丈夫だろう、などと思って無責任な書き込みをすることは絶対に避けて」と力を込める。
「選挙は候補者の間での激しい戦いですので、選挙の自由や公正を害する行為は厳しく処罰されます。ネット上での『なりすまし』や『候補者について偽情報を流す』などは妨害行為そのものです。ごく軽い気持ちやいたずらでやったとしても、妨害行為とみなされると厳しい捜査の対象となります。
選挙に関する書き込みは、必ず書き手が割り出されると考えておくべきです。取締りをする立場からすると、インターネットを利用しての選挙違反は、逆に証拠が残りやすく摘発が比較的に容易とも考えられます」
このように警察の捜査について言及する早川弁護士は、そのほかの注意点について、次のように話す。
「また、誰かから頼まれて、候補者や政党に対する誹謗中傷を書き込むようなことは危険です。ネット選挙が過熱すると、ツイッター、フェイスブックなど、SNSを通じての組織的、集団的選挙妨害が行われる可能性がありますが、うっかりそういった渦の中に入ると、とんでもないことになり得ます。
また、未成年者の方は選挙運動そのものを禁止されています。自分の意見を発表したいでしょうが、選挙運動にあたる内容の書き込みはできません」
●ネット解禁後も公選法は「禁止だらけ」 素人判断は危険
それでは、ネット解禁以外の部分は変わっていない?
「そうですね。公選法には相変わらず多くの禁止事項があります。例えば、事前運動は禁止されていて、決められた期間中以外に選挙運動はできません。他にも代表的なものだと、運動員買収の禁止、戸別訪問の禁止、法定外文書の頒布禁止、法定選挙費用の制限逸脱禁止などがあります。これらに違反すると選挙の自由や公正を害するものとして厳しく処罰されるおそれがあります」
聞いているだけで、くらくらしそうだ。簡単にわかる、まとめサイトやwikiなどは存在しないのだろうか? 早川弁護士は「素人判断は難しいと思ってください」と断言する。
「公職選挙法は選挙の自由や公正を守るために、さまざまな規制を導入しています。ただし、具体的な法の解釈や適用については判例や先例をよく調べないと分からないことが多いのです。法律の専門家でも判断に迷うことが多く、選挙は一般の方の常識が通用しない世界だと思っておく必要があります。
公職選挙法はそもそも、(合法・違法の基準となる)構成要件が広すぎる傾向があり、取り締まる側の判断次第で、それまでは見過ごされていたことがある日突然、選挙違反の対象になる、ということもあります」
せっかくネット選挙が解禁になっても、「常識的な書き込み」で違反とされてはたまらない。選挙を盛り上げるためにも、制度を整えてほしいと感じる。
早川弁護士は「今回の改正は政党や候補者の都合を優先したところもある」とし、「これから日本の選挙をどう変えていくか、一般有権者の立場から、どんどん意見を発信してほしい」と話していた。