オンラインゲームを有利に進めるための不正プログラム、いわゆる「チートツール」を販売したとして、兵庫県の男性が5月中旬、不正競争防止法違反(技術的制限手段の回避装置提供)の疑いで逮捕された。
報道によると、男性は今年1月、埼玉県の男性会社員に対して、オンラインゲーム運営会社「ゲームオン」(東京都)が導入しているセキュリティーソフトを無効化させる「チートツール」を2万円で販売した疑いが持たれている。
チートツールとは、ゲーム内のキャラクターを強くしたり、武器や道具を無限に増やしたりなど、通常はありえない裏技を使えるように改変する不正プログラムのことだ。ゲーム運営会社は不正を防ぐセキュリティーソフトを導入する対策を打っている。
今回、チートツール販売行為の摘発は全国で初めてということだが、どこがポイントになったのだろうか。また、チートツールが横行する背景には、どんな理由があるのだろうか。IT関連の法律問題にくわしい伊藤雅浩弁護士に聞いた。
●チートツール全般を禁止する法律はないが・・・
「これまで、さまざまなチートツールが、オンラインゲーム運営者を悩ませてきており、業界を挙げてチートツールとの戦いを続けてきていました」
伊藤弁護士はこう切り出した。チートツールを使うとゲームの醍醐味が失われそうだが、そうではないのだろうか。
「チートツールを使う目的の一つとして、キャラクターを強くして、アイテムやゲーム内通貨を獲得し、それを現金化するというRMT(リアル・マネー・トレーディング)のためだというのが挙げられます。多くのゲーム運営者は、規約でRMTを禁止しています」
では、チートツールを禁止する法律はあるのだろうか。
「一口にチートツールといっても、さまざまなものがあるので、チートツール全般を禁止する法律があるわけではありません。
しかし過去にも、チートツールを使った行為が、コンピュータに対して不正な指令を与えてゲーム運営者の業務を与えたということで、『電子計算機損壊等業務妨害罪』(刑法234条の2)を適用して書類送検になったという事例はありました。
ほかにも、著作権・著作者人格権侵害にあたる場合や、電子計算機使用詐欺罪が適用されることもあるでしょう」
●チートツールが横行することによる影響は大きい
今回のケースが摘発されたポイントは、なんだろうか。
「さきほど述べたケースとは異なり、不正競争防止法違反(技術的制限手段の回避装置提供)というものです。コンテンツの視聴やプログラムの実行を制限する機能(技術的制限手段)を「無効化」するようなプログラムを提供する行為を禁止する規定です。
運営会社が用意したセキュリティ機能を無効化したプログラムを販売したという、まさに今回のようなケースが対象になります」
今後、チートツールをめぐっては、どのような対応がおこなわれていくのだろうか。
「大多数のプレイヤー(利用者)は健全にゲームを楽しんでいます。チートツールが横行することでゲームのバランスが崩れ、ゲームの運営・維持ができなくなれば、影響も大きいでしょう。
今後も、捜査機関や業界団体、ゲーム運営者が協力しながら、こうした不正行為に対する対応が進んでいくものと思われます」
伊藤弁護士はこのように述べていた。