「ろくでなし子」のペンネームで活動する女性漫画家が、3Dプリンタで出力すると女性器の形になるデータを他人に送信したとして、「わいせつ電磁的記録頒布罪」の容疑で逮捕された事件が、波紋を広げている。
「3Dプリンタ用のデータ」が「わいせつデータ」とされ、立件されるという前代未聞の事件。電磁的記録とは、コンピュータで扱うデータのことだ。「わいせつ電磁的記録」というと、写真や動画のデジタルデータが思い浮かぶが・・・。
わいせつ事件にくわしい奥村徹弁護士は、今回の女性漫画家の行為が「わいせつ電磁的記録頒布罪にならない可能性がある」と指摘する。それはなぜだろうか。理由をくわしく聞かせてもらった。
●データは「容易に再現」できるか?
「『3Dプリンタのデータ』というのは、それだけでは単なるデータにすぎないので、誰にもわいせつに見えません。3Dプリンタに入力して、初めて形になるものです」
奥村弁護士はこのように切り出した。そのままでは誰にもわいせつに見えないデータなのに、「わいせつ」にあたるのだろうか?
「わいせつな画像データ入りのハードディスク(HDD)が、『わいせつ物』かどうかが問題になったアルファネット事件の判例は、データの『再生可能性』に着目し、次のように述べています。
《ホストコンピュータのハードディスクから画像データをダウンロードした上、画像表示ソフトを使用して、画像を再生閲覧する操作が必要であるが、そのような操作は、ホストコンピュータのハードディスクに記憶、蔵置された画像データを再生閲覧するために通常必要とされる簡単な操作にすぎず、会員は、比較的容易にわいせつな画像を再生閲覧することが可能であった》(最高裁判所第3小法廷決定・2001年7月16日)
これによると、画像データそのものは単なるデータだが、コンピュータに入れれば簡単な操作で「容易に再生閲覧」できる・・・だから「わいせつ」とされたわけだ。
●3Dプリンタは、まだまだ普及していない
「この点に照らすと、今回のようなケースでは、データを受け取った人が、元の作品を『どの程度容易に再現できるか』というのが問題になります。
これまで問題とされてきたのは、パソコンのHDDとか、ビデオテープのケースですね。こういった機器はある程度普及していたので、容易に再生できるとされていました」
3Dプリンタのデータはどうだろうか?
「しかし、3Dプリンタは、HDDやビデオテープに比べると、まだまだ普及していません。今回データを受け取った人たちも、プリンタを持っていない人が多いのではないでしょうか。したがって、『容易に再生できる』とは言いづらいと思います。
そうなると、そういうデータを頒布したとしても、『わいせつ電磁的記録』に当たらず、『わいせつ電磁的記録頒布罪にはならない可能性』があると思います」
奥村弁護士はこのように述べ、女性漫画家が無罪である可能性を指摘していた。
たしかに、もし3Dプリンタを持っていたとしても、それを使いこなして「複雑な造形物」をリアルに再現するには、それなりのノウハウが必要だろう。今後、事件はどのような展開を見せるのか・・・ますます注目が集まりそうだ。