弁護士ドットコムニュースでは、一般の方々に弁護士をもっと身近に感じていただくために、学生による弁護士へのインタビュー企画をおこなっています。
今回お話を伺ったのは、池田 誠弁護士(にっぽり総合法律事務所)です。幅広い分野の相談を手がけ、中でも、債権回収に注力している池田弁護士。債権回収会社での業務で培った確かな技術と実績を聞きつけ、遠方からも相談者が訪ねて来るといいます。
インタビューでは、弁護士を目指した理由や、債権回収に注力するようになった経緯などについて、お話いただきました。
弁護士への夢を叶えた、恩師の言葉
−弁護士を目指したきっかけや理由を教えてください。
古い友人によると、私は小学生の頃から弁護士になりたいと言っていたようです。自分では正直、あまり覚えていません(笑)。当時は弁護士について知識はなかったので、漠然とした憧れだったのでしょう。母からは冗談で「弁護士か医者になってほしい」と言われていましたから、母の言葉を真に受けて弁護士を目指していたような気もします。
とは言え、小学生の頃は、自分が本当に弁護士になれると思っていませんでした。転機は中学校の先生から聞いた「中学生の時に思い描いていた夢は、願えば叶う」という言葉です。
先生も中学生のときに思い描いていた「教師になる」という夢が叶ったとおっしゃっていました。その話を聞いて、身近な実例に背中を押されたような気持ちになりました。それで、当時の自分の一番大きな夢が「弁護士」だったので、実現に向けた第一歩として、夢を公言してみようと思ったことが今につながっています。
それと、同じ頃、世の中の制度や社会の成り立ちに興味が芽生え始めていて、それらを知る上で、法律が一番の近道になるとも感じていました。夢を公言しようと思った時期と法律に対する興味が深まった時期が合致し、弁護士を本格的に目指し始めました。
−どんな学生でしたか?
大学に入学したときには「自分は司法試験に受かる」と信じて疑っていませんでした。サークルは、自分が予備校で勉強したことを人に教えようと思い、法律サークルに入りました。最初に入ったサークルでは思うような活動ができず、退会。勉強に打ち込める新しい法律サークルを自ら立ち上げました。私が司法試験に合格できたのは、人に教えることで自分の法律知識が深まったからかなと思います。
実は私、大の活字嫌いなんです。子どもの頃から、本も新聞も読まずに育ってきました。本を読むのは法律の勉強のときだけです。とはいえ、元々図鑑だけは好きでした。六法は自分にとって、色々な種類の法律が載っている図鑑のようなもの。勉強していて、いろいろな種類の動物の解説を読み解くような面白さを感じていたのかもしれません。
弁護士や裁判官を目指す学生の中には「自分は勉強が嫌いだから」と、夢を諦めてしまう人も多いです。でも、活字が嫌いな私も弁護士になれました。勉強の好き嫌いではなく、「興味があるならやってみたら?」とアドバイスしたいですね。
生まれ育った街で開業「身近な人の力になりたい」
−日暮里で事務所を開業することになった経緯を教えてください。
私は生まれも育ちも日暮里なんです。土地勘があり、日暮里の独特の雰囲気にも馴染んでいます。ここで開業したら、仕事がやりやすいだろうなと感じていました。
それに、親族や友人から「トラブルに巻き込まれ、弁護士を探していた時期があった」という話を聞くことがあります。トラブルの後になって、困っていた人の話を聞くと、申し訳ない気持ちになるんです。身近な人を助けられなかった経験を重ねるたびに「自分が弁護士になった意味」を考え、後悔しないで済むように日暮里で自ら開業することにしました。
−事務所の代表としてはどんな仕事をしていますか?
事務所の代表とはいえ、あくまで一人の弁護士なので、弁護士としての業務が中心です。代表の仕事としては、経営面や人事、従業員の労働環境の整備などに関する業務をおこなっています。
−事務所の代表になって大変だったことはありますか?
幸いなことに事務所を開業してから経営的な苦労はありません。とはいえ、いつか依頼が来なくなったり、収入が不安定になったりしたらどうしよう、という不安は常にあります。
−事務所の代表として、他の弁護士やスタッフにどのような思いがありますか?
弁護士については、常に120%のパフォーマンスをしてほしいと思っています。事務所の売り上げのことばかり気にしていると、いいパフォーマンスはできません。とにかく、事務所に所属している弁護士には、売り上げのことは度外視して120%で仕事をしてほしいです。本人の研鑽にもつながるし、1人の力が上がれば事務所全体の力が底上げされると思います。
短期的に見たら不経済な考え方かもしれません。しかし、長期的に見れば、より複雑な案件やスピードが求められる案件もこなせるようになるはずなので、理にかなった考え方なのではないかと思います。
一方スタッフに関しては、もう少し楽をさせてあげたいというのが本音です。今、事務所の構成は弁護士3名、スタッフ1名というアンバランスな状況です。私の事務所は、定型的な事件が少ないので、スタッフは事件のたびに勉強し、常に新しい知識を吸収してくれています。日々苦労をかけてしまっているので、もう少し楽をさせてあげたいですね。
債権回収に注力 「貸す前」の相談がトラブル防ぐ
−注力分野およびその分野に注力している理由を教えてください。
注力分野は2つあります。1つ目は債権回収です。弁護士1年目のときに、所属していた事務所から、債権回収会社に出向していた時期があるんです。債権回収の最前線で、年間数十件にも及ぶ難しい案件を手がけました。厳しい環境で経験を積んだことで、債権回収案件に対する技術と感覚が研ぎ澄まされました。自分の大きなアドバンテージになっています。
2つ目は証券金融関係の事件です。以前所属していた事務所で、銀行や証券会社を相手にした顧客側の訴訟を多数手掛けてきた経験を生かし、注力しています。
−債権回収会社ではどんなお仕事をされていたのですか?
企業で働く弁護士と聞くと、法務部で日々淡々と事務仕事をしているイメージが浮かぶかもしれません。実際は、債権回収のためにほぼ毎日のように裁判所に行って訴訟の対応をしていました。訴訟関係の業務に加え、稟議のチェックや社内ルールの制定、支店での研修もおこなっていました。
−今、事務所ではどんな相談が最も多いですか?
あまり特定の分野に偏っているわけではありません。強いて言えば、注力分野である債権回収の相談が多いです。他には、あまり似た例がないトラブルや、他の事務所で断られてしまった複雑な案件が持ち込まれることも多いです。日々、汗を流しながら対応に当たっています。
−依頼者の方は日暮里在住の方が多いですか?
意外とそうでもないんです。通勤途中に日暮里を通る方や、私が債権回収や証券金融関係の事件に強いと聞きつけて遠方から来る方もいます。
−一般の人は重大ではないと考えていても、実は弁護士に相談したほうがよい事例はありますか?
弁護士は誰もが、案件に対して「もっとはやく相談してくれれば」と思っているのではないでしょうか。私も債権回収の相談を受けると、「お金を貸す段階で相談してくれればよかったのに」と思います。
お金を貸す人と借りる人では、お金を貸す人が圧倒的に有利な立場にいます。ですので、貸すにあたって「借用書を作らせてほしい」「弁護士に相談してもいいですか?」と言うのは本来難しくないと思います。
「弁護士に相談していいですか?」と聞いたら、「やっぱり借りるのはやめます」と返答されることもあるでしょう。弁護士という言葉を出されてひるむ人は、恐らく返済意思が乏しいです。お金を貸すに値する人か確かめるためにも、貸す前に「弁護士に相談していいですか?」と聞いてほしいです。
−お金を貸す前に弁護士に相談したり、借用書を作りたいと相談したりする方は少ないのですか?
基本的にいません。個人間のお金の貸し借りで、お金を貸す前に相談されたことは一度もないです。貸すときには、皆、「相手がお金を返さないなんてあり得ない」と思うようです。ところが、実際にはお金を返してもらえず、紛争化してしまうケースが少なくありません。
そもそもお金を貸したかどうか、証明が難しい場合が多いです。もともと返済がなくて回収が難しい事件で、お金を貸した事実の証明まで問題となってしまうと、難しい債権回収がさらに難しくなってしまいます。
−お金を貸すかもしれないという相談を受けたらどのように対応しますか?
お金を貸すのは相談者本人の意思です。とはいえ、私からも「本当にお貸ししていいんですか?」と確認します。相談者の意思を聞いた上で、最低限、借用書を作ったり、担保や保証人を求めたりするといった対策をとるようアドバイスします。
私が実際に経験した案件の中には、詐欺に近いケースもありました。詐欺の被害に遭わないためにも、「借主はどういう人なのか」「どうしてお金を借りるのか」「返済する目処は立っているのか」といったことを、できる限り具体的に聞いて書面化しておくことをおすすめします。
貸す前の段階で相談してもらえれば、トラブルの予防策を指導するだけで終わるので、弁護士費用もそれほどかかりません。お気軽にご相談いただければと思います。
「自己判断で行動することがリスク。気軽に相談を」
−弁護士として活動してきた中で、一番印象的だったエピソードを教えてください。
弁護士になりたての時に担当した刑事事件です。薬物事件の前科がある女性が、再び薬物を使用してしまい、起訴された事件でした。前科があったため、実刑が下る可能性も考えていました。少しでも刑を軽くするために、女性の唯一の親族であるお父様に情状証人として女性の更生を誓ってもらいたいと考え、遠方から来ていただき、証人尋問をしました。
実刑があり得る事件の場合、証人尋問をした当日には判決が出ないことが多いです。しかし、この事件では裁判官が粋な計らいをしてくれて、証人尋問のあと、その場で執行猶予付きの判決を出してくれたんです。
裁判が終わり、傍聴席で女性とお父さんが抱き合い、涙しながら感動の再会を果たしていた様子が今でも目に焼き付いています。「担当してよかったな」と思った事件です。
−法教育の普及・推進に関する委員会ではどのような取り組みをなさっているのですか?
主な活動は2つです。1つ目は小中高大での授業、2つ目はジュニアロースクールという形で弁護士会館で子どもたちに授業をしています。法教育と聞くと、「法律を教える教育」と想像される方が多いかもしれません。実際には、法律そのものを教えるのではなく、法律や社会制度の背景にある考え方、価値観を学ぶための授業をおこなっています。
私は法教育委員会の中で、主に小学生への授業をおこなう部会に所属しています。授業では、たとえば、ウサギの当番をどうやって公平に決めるか、子どもたちにディスカッションしてもらいます。他にはネットリテラシー、つまり、インターネットとの付き合い方を考えてもらう授業などもおこないました。一見、法律とは無関係のようですが、実は密接に結びついているんです。このような授業を通して、子どもたちの自ら考える力を養います。
−休日はどんな過ごし方をされていますか?
休日は子ども中心の生活です。金曜日は、妻と、どうやって子どもたちを楽しませようか、作戦会議をして週末に臨みます。それと、料理が好きなので、週末はできるだけ私が家族の食事を作るようにしています。料理をしているときは無心になれるので、私にとっては良い息抜きになるんです。
−今後の展望を教えてください。
事務所の経営方針として、拡大していくことは考えていません。経営者として「質より量」の考え方がちらつき始めてしまう気がするからです。事務所を拡大するのではなく、今と同じくらいの規模を維持して、常に120%の力を出したいと思っています。
組織として、120%の力で仕事をし続けることは難しいです。ただ、難しくても、120%の努力を積み重ねることが顧客の満足度を上げることにもつながると思います。120%の努力の維持と、顧客満足度を上げることが、私にとって最大の展望です。
−法律トラブルを抱えて、悩んでいる方へのメッセージをお願いします。
とにかく気軽に相談してほしいです。弁護士は身近な存在なので、相談することをためらわないでください。弁護士に相談せず、自己判断で取った行動が、相手方にとって有利な証拠になるかもしれません。相手方が証拠を隠すきっかけを作ってしまう可能性だってあります。自己判断で行動すること自体がリスクになることを理解してほしいです。
初回相談無料の弁護士事務所はたくさんあります。弁護士が対処した方がよい案件か、そうではないかを聞くだけでも価値があります。気軽な気持ちで相談してください。
(取材・文 山下沙也加)