弁護士ドットコムニュースでは、一般の方々に弁護士をもっと身近に感じていただくために、学生による弁護士へのインタビュー企画をおこなっています。
今回お話を伺ったのは、長瀬 佑志弁護士(弁護士法人長瀬総合法律事務所)です。茨城県内に複数拠点を構える法律事務所の所長を務める長瀬弁護士。独立前から力を注いできたという企業法務をはじめ、交通事故や離婚問題など幅広い分野のトラブルを解決に導いてきました。
インタビューでは、弁護士を目指したきっかけや、特に注力している企業法務への思い、ある依頼者からの忘れられない一言などについて、お話いただきました。
空手と勉強に明け暮れた大学時代
−弁護士を目指したきっかけや理由を教えてください。
私の叔父が検察官だったことが、法曹を意識したきっかけでした。幼い頃から叔父に検察官や弁護士の話を聞き、法曹の仕事を身近に感じていたことが大きいと思います。
弁護士の中坊公平先生にも大きく影響を受けました。中坊先生は、森永ヒ素ミルク事件被害者弁護団長や、千日デパート火災テナント弁護団長として活躍され、日本弁護士連合会会長も務めた方です。学生時代、中坊先生がご活躍する姿を見て「弁護士1人の力で世の中を変えることができるのか」と感じ、弁護士の道に進みました。
−どんな学生でしたか?
大学時代は空手部に所属し、日中はひたすら空手の稽古。夜は司法試験予備校で勉強をしていました。大学生活は空手と司法試験の勉強しかしていません。
思い返すと司法試験の勉強はとにかく体力勝負でした。空手で体力をつけていたので、試験を乗り切れたのかなと思います。
弁護士2年目までは空手を続けていました。現在は仕事が忙しくなってしまい、空手から遠のいていることが悔やまれます。
−弁護士登録してから独立に至るまでの経緯を教えてください。
弁護士1年目は西村あさひ法律事務所に所属し、2年目に茨城県内の、地域に根ざした水戸翔合同法律事務所に移籍しました。水戸翔合同法律事務所で4年ほどご指導をいただいた後に独立しました。
−独立のきっかけは何ですか?
西村あさひ法律事務所では企業法務の案件、次の事務所では個人法務の案件を担当していました。2つの事務所で経験した、企業法務と個人法務の両方に対応できる事務所を作りたいと思ったことが独立のきっかけです。
−事務所の代表としてはどんな仕事をしていますか?
現在はプレイングマネージャーとして事務所を率いています。弁護士としての実務を行いつつ、全体のマネージメント、案件の獲得といったマーケティングの仕事も担当しています。
−マーケティングは元々勉強されていたんですか?
弁護士になる前は知識もノウハウも全くありませんでした。独立して、「事務所を構えているだけでは案件が来ない」と肌で感じました。弁護士ドットコムに登録したり、いろいろな会合に顔を出したり、HPを作り込んだりと模索しました。案件を獲得するために、マーケティングのノウハウを、実践を通じて少しずつ身につけていきました。
−独立後にぶつかった、一番大きな壁は何ですか?
独立直後はそもそも仕事が来ないことが一番の壁でした。ある程度仕事が来るようになってからは、依頼された案件に対して適切に対処できる体制をどのように構築・維持していくかが新たな壁になっています。
−事務所の他のスタッフに対してどのような思いがありますか?
一緒に仕事をしてくれている弁護士にもスタッフにも感謝しかありません。本当に誠実に仕事に取り組んでいただいていると日々痛感しています。私が事務所経営で誇ることができることは、人に恵まれたことですね。
経営者としての視点を活かし中小企業法務に注力
−注力分野およびその分野に注力している理由を教えてください。
大きく分けると個人法務と企業法務を扱っています。
個人法務では、交通事故と家事関係の案件に注力しています。家事関係は、離婚と相続の案件が多くなっています。
企業法務では、中小企業が多い茨城県で事務所を経営していることもあり、中小企業法務に注力しています。企業法務は弁護士1年目に所属していた西村あさひ法律事務所で案件を担当していたので、もともと興味がありました。
事務所を開業し、私自身が経営者になってから、従業員の立場では見えなかった様々な経営上の課題を感じるようになりました。「他の経営者も同じように悩みを抱えているのではないか」、「中小企業の経営者をサポートすることは、働いている従業員の生活を支えることにもつながるのではないか」と実感しました。
私自身も経営者になったからこそ、より中小企業法務への思いが強まり、注力分野となりました。
−個人法務と企業法務で心がけていることは違いますか?
まず、共通していることは、悩みや課題を抱えている方が相談に来るところです。相談者に対して、弁護士として何が実現できるのか、しっかりと話を聞いてから提案することを意識しています。
個人法務では、目の前の相談者だけに集中すればよいことが多いと思います。一方、中小企業の経営者や法務部の方からの相談では、相談者である企業だけではなく、企業の利害関係者のことも考える必要があります。例えば、従業員や株主という企業内部の関係者もいれば、債権者をはじめとする取引先などの企業外部の関係者など、立場も異なる多数の方が関わってきます。企業法務では、相談者だけではなく利害関係者のことも意識して、それぞれの立場を考慮したアドバイスを心がけています。
−多く担当されている交通事故や離婚案件などは、一般の方は知識が少ないと思います。どのようなことを心がけて対応していますか?
まず、相談者がどのような問題を抱えているのかという事実をうかがい、その後に法的にどのような解決ができるのかという道筋を提示します。その上で、ご依頼いただいた場合の獲得目標を明確に設定し、獲得目標までの流れをわかりやすくお伝えすることを心がけています。
−一般の方から寄せられる相談はどんな内容のものが最も多いですか?
事務所全体で見ると、一番多い相談は交通事故と離婚問題の2分野になります。私個人としては企業法務関係の相談が一番多くなっています。
−新型コロナウイルスの流行によって、相談内容は変わりましたか?
外出自粛の影響か、一時期は交通事故の相談が大きく減りました。逆に増えたのは相続と離婚に関する相談ですね。
相続の相談が増えたのは、生前にしっかり準備しておこうという意識が広まったことが要因なのかもしれません。離婚に関しては、自粛によってご夫婦が顔を合わせる時間が長くなった結果、お互いの関係を見直そうとするようになったのかもしれません。
忘れられない裁判と依頼者からの言葉
−弁護士として活動してきた中で、一番印象的だったエピソードを教えてください。
裁判に勝った時より負けた時の方が印象に残っています。
一番印象に残っている案件は、後遺障害の等級に争いがあった交通事故事案です。何年もの間、依頼者の方と二人三脚で取り組んでいたのですが、最終的には思うような成果が出ませんでした。
依頼者の方に案件終了のご報告をした際、成果が出なかったお詫びをしました。その際、依頼者の方から、最後まで取り組んだことに対するお礼と、「これからもずっと先生の活動を追っていきます。今回の案件を通して、弁護士として成長していってください。」という言葉をかけていただきました。
今でも担当している案件がうまくいかないとき、この言葉を思い出します。
すでに解決した案件であっても、依頼者の方にとって、案件を担当した弁護士を忘れることはないと思います。解決した後の日々の私の仕事も、かつての依頼者にとって大切なことなのだと感じました。過去に担当した依頼者の方にも結果に納得していただくためには、これからも誠実に案件に取り組んでいかなければならないと思います。
あのとき、依頼者の方がかけてくださった言葉は、どんな案件でも手を抜かず、常に誠実に対応していかなければならないという戒めになっています。
−休日はどんな過ごし方をされていますか?
休日は、事務所のマーケティングやマネジメントなど、平日に終わらなかった仕事をすることが多いですね。仕事を終えたあとの時間は、子どもたちと一緒に遊んでいます。
新型コロナウイルスが流行する以前の休日は、色々な会合に顔を出すことが多かったのですが、いまは会合を開くこともできませんので、家族と過ごすことができる時間が増えました。この点は本当に良かったと思っています。
−今後の展望を教えてください。
私たちは地方都市である茨城県で事務所を開設しています。地方都市で主に中小企業法務を扱う事務所として、よりよい法的サービスを提供できる体制を築き上げていくことを目指しています。
−法律トラブルを抱えて、悩んでいる方へのメッセージをお願いします。
私の事務所では「再生司法を実現する」ことを理念に掲げています。すべてのクライアントを「再生」するという使命のもと、トラブルを解決するだけではなく、依頼者の理想を実現するお手伝いをしたいと思っています。
法的問題などでお悩みの方や企業がいらっしゃるのでしたら、お1人で悩みを抱えずに、お気軽に相談してください。
皆様のお悩みの原因がどこにあるのか、どのような解決策があるのかを、ご一緒に考えていきましょう。
(取材・文 山下沙也加)