2019年08月20日 15時21分

「ガラケー女」デマを流された女性と弁護士の戦い 「叩きたい」安易な拡散に警鐘

出口絢 出口絢
「ガラケー女」デマを流された女性と弁護士の戦い 「叩きたい」安易な拡散に警鐘
デマを流された女性の代理人を務める小沢一仁弁護士(2019年8月19日、弁護士ドットコム撮影)

茨城県守谷市の高速道路で起きたあおり運転事件では、事態の一部始終をとらえたドライブレコーダーの映像が話題となった。この際、被害にあった車にガラケーを向けて撮影している女性に関するデマがネット上で広まった。

ネット上では8月16日に男性が指名手配され、氏名が明らかになった後から、車に同乗していた女性を特定する動きが加速。男性がインスタグラムでフォローしており、映像の女性とサングラスや服装が似ているという理由だけで、別の会社役員の女性が「ガラケー女」とデマを流された。

こうしたデマに対し、間違われた女性と代理人の小沢一仁弁護士は8月18日、「情報は全く事実無根のもの」と声明文を発表。小沢弁護士の元にはデマを拡散した人から20数件の「謝罪メール」も届いている。

「正義感に基づくものだとしても、安易なデマ拡散は違法行為になりうる。ネット上の根拠のない情報を信じ込んで拡散する前に、よく考えてほしい」と話す小沢弁護士に、今回のデマ拡散の経緯とあいまいな情報を拡散する法的リスクについて聞いた。(編集部・出口絢)

●デマの発端はツイート

ーーデマの発端は何でしたか

デマの発端は、8月17日早朝に呟かれたツイートでした。

17日午前4時ころ、女性のインスタグラムのスクリーンショットと共に「#ガラケー女 ●●(女性のフルネーム)」と呟くツイートがありました。

また、その後、同じく女性のインスタグラムから転載した顔写真と共に「あおり運転 指名手配犯 ガラケー女 ●●(女性のフルネーム) 拡散希望」といったつぶやきがありました。

デマはどんどん広がっていき、朝起きて事態に気付いた女性は17日午前7時、自身のFacebookに「起きたら犯罪者扱いされててびっくりですが完全に事実と異なりますので無視してください」と投稿しています。

女性が17日朝に自身のFacebookにした投稿 女性が17日朝に自身のFacebookにした投稿

その後も、女性が代表を務める会社には電話が相次ぎ、女性のフルネームはツイッターのトレンドにも入りました。また、女性のインスタグラムには「捕まれBBA」「ガラケーババア」「反省して出頭してください」などの誹謗中傷が殺到しました。

女性のインスタグラムのコメント欄に殺到した誹謗中傷 女性のインスタグラムのコメント欄に殺到した誹謗中傷(代理人提供)

17日午前に女性から相談を受け、まずは警察に相談に行くこと、そしてデマを否定する声明文を出すことを提案しました。

ーーこうしたデマが拡散した場合、当事者から情報発信することが有効ですか

間違った情報が流れて炎上状態になっているときに、当事者から正式なものとしてリリースを出すことには一定の効果があると考えます。特に、今回のように明らかに間違っている情報の訂正は、原則として早めに行った方が良いと思います。

一方で、炎上している状態では、正式なリリースをしても、かえって火に油を注ぐ結果にもなりえるので、ネット上の論調の流れをまめにチェックして、タイミングを計ることも状況に応じて必要だと思います。

●女性がFBで否定後、潮目が変わる

ーー女性がFacebookで否定した後も、デマは拡散し続けたのですか

それまで罵詈雑言一色だったものが、17日昼過ぎごろから次第にネット上の論調が変わり始めました。

本人が否定している上、そもそも女性を同乗していた女性だとする根拠が「サングラスが似ている」「鼻やあごの形が似ている」「着ている服が似ている」と極めて薄弱であることに気づく人が増えてきたのでしょう。

そこから「人違いだったら大変ですよ」という警告するようなツイートが増え、夕方くらいまでには「デマだ」という声が大きくなっていきました。

ーーデマが拡散してからデマを否定する声明文を掲載するまで1日ほどと、非常に早い対応でした

炎上案件の対応はスピードとタイミングが重要だと思います。このまま「デマだ」との声が大きくなり、多数派となれば、そのまま世間の興味が失われていくと思いました。

また、男性には逮捕状が請求され、指名手配もされていたので、近いうちに逮捕される可能性があり、その際に女性被疑者の氏名が公表されれば、やはり世間の女性に対する興味は失われていくと思いました。

興味が失われた後にに声明文を公表しても、世間の関心はそちらにうつり声明文の効果が低下するので、その前に公表をする必要があると思いました。

17日午前中に声明文について女性に相談したところ、「少し検討させてほしい」とのことでしたが、夕方ころ再度女性に連絡をし、「デマだとの声が強まっている今が、声明文を出す最良のタイミングだ」と伝えました。

女性からも「進めたい」と回答があったので、作成しておいた声明文の案文を確認してもらい、18日に日付が変わったころに女性が代表を務める会社のHP上に、デマを否定する声明文を公表しました。

●デマ拡散の法的問題

ーーこうしたデマを流す行為は、どのような法的問題がありますか

まず、刑事事件としては、会社代表者である女性が犯人であるとの情報を公表したことで、会社に電話を殺到させ、業務に支障を生じさせたのですから、会社に対する業務妨害罪が成立しえます。

また、これらの情報は、会社の代表者である女性が悪質なあおり運転や暴行を実行した男性に同行し、暴行の様子を撮影するという特異な行動を取っていた女性被疑者であるとの事実を摘示するものですが、これが会社ないし女性の社会的評価を低下させることは明らかですから、女性の会社や女性自身の名誉権を侵害するものであり、名誉毀損罪も成立しえます。

次に、民事事件としても、上記と同様の理由で、不法行為に基づく損害賠償請求が認められる可能性があります。

ーー自分でデマを発信しただけでなく、拡散する行為だけでも法的問題がありますか

トレンドブログやまとめサイト、掲示板、ツイッターなどで、デマを積極的に発信するだけでなく、リツイートなど引用して広める行為も、女性の会社や女性自身の名誉権を侵害する行為にあたる可能性があります。

過去の裁判例では、「リツイートも、ツイートをそのまま自身のツイッターに掲載する点で、自身の発言と同様に扱われるものであ」るとの理由で慰謝料の支払い義務を認める判断がされたこともあります(平成26年12月24日東京地裁判決)。

ーー「似ている」というあいまいな情報を元に、女性を被疑者だとする情報が拡散しました。今回のデマ拡散をどのように見ましたか

世間の注目を集める悲惨な事件や事故が起きると、ネット上でデマが拡散することが繰り返されています。

2017年6月に東名高速道路で夫婦が死亡した事故をめぐっても、10月10日の被疑者逮捕後からネット上でデマが広まり、容疑者と姓が同じというだけで勤務先とされ、1日で100件ほどの電話が寄せられた会社もありました。

今回、声明文を公表後、私の元には情報を拡散したという人から、「自分の薄弱な行動により、拡散をしてしまいました。こういったネットの情報に呑まれないよう、これからは自重致します」、「Facebookに転載しましたが、夜削除し、謝罪文と謝罪動画を掲載しました。大変に申し訳ございませんでした」といった謝罪メールが20数件きています。

中には、自分がリツイートしたかどうかわからないけれども「したかもしれないから謝りたい」といったものもありました。それほど安易な考えでリツイートをした人もいたということです。

ーー情報を精査しないまま、非常に軽い気持ちでデマを拡散していたのかもしれません

世間の感情がワンサイドに傾くような事件で、私刑(社会的制裁)をしなければならないという価値観を持っている人が、「叩きたい」という感情が先走り、安易に情報を信じて拡散する。非常に問題だと感じています。なお、一般論として、法的手続によらない私人による私刑(社会的制裁)は、違法行為となる可能性を相当程度含んでいるので、注意が必要です。

正義感に基づく行動だということは理解しますし、正義感を持つこと自体は良いことだと思います。

しかし、例え正義感に基づくものでも、無関係の人の権利を侵害すれば、刑事上、民事上ともに違法行為となりえます。そのようなことは、拡散をした人自身も望んでいないでしょうし、誰も得をしません。

人を犯罪者として指摘することの重大さ、これにより指摘された人に生じるであろう不利益に、もっと思いを巡らせて欲しいと思います。

●被害者の救済、高いハードル

ーー声明文では、今回のデマ拡散について法的措置をとると表明しています

デマを広めたどこまでの人を対象とするか、女性と検討しているところですが、インターネットの名誉毀損問題をめぐっては、被害者側の救済が難しい現状があります。

まず、民事事件としては、発信者情報開示請求をして投稿者を特定したうえで、損害賠償請求をすることになります。

また、刑事事件については、必ずしも被害者側で投稿者を特定する必要はありませんが、特にツイッターなど海外サイト上の記事が問題になる場合は、特定の手間が省ける分、経験上特定してからの方が警察が動いてくれる傾向にあると考えています。

しかし、発信者情報開示請求訴訟については、事実上、法律上の主張に争いがある場合は、訴訟手続に1年以上かかる場合があります。被害者にとって時間も費用も大きな負担となります。

憲法が保障している「表現の自由」や「通信の秘密」との関係で、これらとは相反する発信者情報開示請求の要件を厳格に定める必要があることは分かります。

しかし、それでもネット上の権利侵害の状況を見ると、発信者情報開示請求の高いハードルは再考すべきだと感じます。被害者を速やかに救済するための立法的な措置も必要だと考えます。

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