「睡眠時無呼吸症候群」のため過失なし――。自動車運転過失傷害の罪に問われていた男性に、千葉地裁は10月上旬、無罪の判決を下した。男性は乗用車で赤信号の交差点に進入し、別の乗用車に衝突して6人に重軽傷を負わせたとされる。
報道によると、男性は事故の2年前から睡眠時無呼吸症候群(SAS)を患っており、この事故のときも強い眠気に襲われ、事故直前の記憶もないという。千葉地裁は「重い睡眠時無呼吸症候群のため、事故当時、突発的な意識障害に陥った可能性がある」と認定。「信号を守る義務を果たせない状態だったと考えられ、過失は認められない」として、無罪を言い渡した。
睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に呼吸が止まって十分に眠ることができず、日中に強い眠気に襲われる病気だ。この病気にかかっている人からすれば、やむをない面があるのかもしれないが、ケガ人が出ているのに無罪はおかしいのではないかという指摘もある。今回の判決をどう考えればいいのか、交通事故にくわしい前島申長弁護士に聞いた。
●SAS患者でも有罪とされるケースはある
「自動車運転過失傷害罪のような過失犯において、被告人に過失が認められるためには、(1)結果予見可能性、(2)結果回避可能性、(3)注意義務の現実性が必要です。
重度のSAS患者の場合、走行中になんの予兆もなく、つまり眠気の自覚がないまま、突発的に眠りに落ちることがあります。そうなると、自己の身体制御は不可能となりますので、(3)の注意義務の現実性が欠けることになります」
つまり、本人がいくら「注意」をしていても事故を防げないケースがある、ということだろう。それでば、この病気にかかっていれば、どんな事故でも無罪とされるのだろうか。
「いいえ。そうではありません。裁判例を分析してみますと、たとえば停止線直前・直後で急ブレーキをかけた痕が残っている場合や、信号サイクルなどから被告人が赤信号であることを認識していたとされる場合には、SASの主張が退けられ、有罪判決が下されています
他方、無罪認定がなされるのは、たとえば、対向車線を約4秒以上進行した上、ノーブレーキで衝突しているようなケースです。通常のドライバーであれば、意識的にこのような異常走行をすることは考えにくく、何らかの突発的な身体的異変により意識を失ったことが推認されるからです」
●SAS対策の「新たなルール」も求められる
どうやら、それぞれの事故が、客観的に見て、どんな形で起きたかが、裁判でも重要なポイントとなるようだ。前島弁護士は次のような注意点を指摘し、行政の対応を促していた。
「今回の判決(千葉地裁平成25年10月8日判決)も、裁判所において詳細な認定を行った上で、無罪判決が下されました。SASに罹患しているからといって、すべて無罪判決になるわけではないことに、注意する必要があります。
現在、日本人の成人の睡眠時無呼吸症候群(SAS)有病率は、約3%といわれています。運送会社などでは、無呼吸症候群スクリーニング検査などを自主的に実施している会社もあります。今後は、安全運転の確保に向けた行政のルール作りが必要になってくるものと思われます」